10-3 近衛兵パーシヴァルの絶句

「パーシヴァル……」


 コーンウォール教員寮、自分の部屋に、俺は近衛兵パーシヴァルを呼び出していた。今日は金曜日、これから教室で鑑定の儀式がある。その前に、アンリエッタが教室に一度顔を出し、連れ出したのだ。


「どうしたエヴァンス」


 パーシヴァルは難しい顔をしていた。


「今日の鑑定で、なにかあるんだな。だから私を呼んだ、事前に」


 さすが鋭い。


「そうです。三つめの宝箱を発見した。だからこれを……」


 巾着に包んだアイテムを、俺とアンリエッタがテーブルに広げた。


「これは……」


 パーシヴァルが目を見開く。


「宝石だな。こんなに……いっぱい。それに、どれもこれも巨大だ」

「ええ」


 湖畔で拾った、例の奴だ。


「これは、俺とアンリエッタ……いやマクアート家からの献上品にします。タラニス王への」

「我が君へのか……。しかしこれは、どう見ても数億……いや十億ドラクマの桁まであるぞ」


 今一度、二十数個もの巨大宝石を見つめた。透明な石、それに赤、緑、紫、虹色……。あるいは見たこともない、内部から自ら光を放つ石まで。


「特にこの自発光の宝石は、おそらく歴史上、初めて発見されたものだ。値段すら付けられん。これはもしかすると、もうひと桁上までいくかも……」

「だからこそ、国王の手で保管してほしいんです」

「では……」


 宝石に引き寄せられていた視線を、ようやく俺に戻した。


「では、これが宝箱の中身なんだな」

「違います」

「違う?」


 片方の眉を上げてみせた。


「こんなとんでもないものを見せつけておいて、これが宝と違うとはどういうことだ。これが前座だとでも言うつもりか」


 唸っている。まあ当然だろう。


「これは単に、俺とアンリエッタが現地で入手したもの。固有ダンジョンからの収穫物は個人の所有物と決まっている。だがもちろん、他人に譲渡することは可能。賢王と誉れも高いタラニス国王に、俺とマクアート家から献上します」

「ふむ……。アンリエッタ嬢からではなく、マクアート家からの献上扱いにするのか。実家からの献上品として、アンリエッタ嬢が申し出る形で。もちろんお前との連名で……」


 目をつぶると顔を上げ、しばらく黙っていた。それからほっと息を吐くと、瞳を開いた。


「つまりこれは布石ということだな。その……宝箱の中身が相当にヤバい。だからこそ、国王に恭順きょうじゅんの姿勢を見せておきたいということか」

「そうです。俺達には謀反を企てる気などない。この間の謁見で、タラニス国王もそれはわかってくれたはず。だが……周囲の側近や貴族連中がどう噂するかは、また別だ。彼らにもはっきりわかる形で、国王への恭順を示しておきたいんです」

「ふん。エヴァンスお前、きちんとまつりごとできるようになったではないか」


 笑っている。


「ドハズレ論法で自らの首を斬られる寸前まで言ったアホウとは思えんな」

「アンリエッタに言われたんで。絶対にそうしろと」

「そんなところだろうと思った」


 苦笑いだ。


「いえ、エヴァンスくんの発案です」


 アンリエッタは澄ましている。


「まあそれはもうどうでもよい。イド様やグリフィス学園長にも、後で私から報告しておく。……で、宝箱の中身は何だったのだ」

「……これです」


 俺が取り出したアイテムを見て、パーシヴァルの顔はひきつった。


「これは……たしかに……」


 それきり、声が出てこない。


 テーブルの上では、かんむりが輝いていた。もちろん、被れる大きさだ。固有ダンジョンの扉や宝箱と同様の、漆黒の金属製。宝飾品こそ取り付けられていないが、びっしりとなにかの紋様が刻まれている。凄いオーラを放っており、王冠の周囲が微かに揺らいで見えるほどだ。


「たしかに……誤解を……招きかねないな。いや誤解程度で済むなら……まだいいが……」


 かろうじて、パーシヴァルは言葉を押し出した。




●次話、急展開! 本日昼に連続公開です。お楽しみにー。

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