6-5 大量アイテムの鑑定結果
「おう、エヴァンス、学園に戻ったか」
金曜午後。いつものように俺は、底辺Zクラスの扉を開けた。週一の生存確認の日。もちろん役員や近衛兵パーシヴァルが教室後部に並んでいる。Dに「出世」したビーフの姿は、もちろんない。
今日の俺は、でっかいズタ袋を背負っている。もちろん、「てらごや」でみんなから分けてもらったアイテムを入れた奴だ。
俺の大荷物を見ると、教頭は途端ににこにこ顔となった。
「ここ三週間ほど獲物なしだったが、今週は大漁のようだな」
「まあそうすね。……ただ、価値はさほどないと思います」
一応、釘を差しておく。
「またまたーあ」
おどけてみせる。教頭なのに、もはや道化並だな。
「おっ、今日のエヴァンスは凄いな」
「鑑定が楽しみだ」
「先生、話はどうでもいいから、まず鑑定をひとつ」
「そうだそうだ」
クラスメイトも興奮気味だ。今日もアンリエッタは俺の手を握っている。それがもう毎週のことになったので、もはや誰もなにも言わなくなったな。アンリエッタのためにも、いい傾向だわ。
「さて、見せてもらおうか、エヴァンス」
「はい、先生」
教卓の上に、袋の中身をぶち撒けた。
「これはまた……多種多様だな」
唸っている。
そりゃそうだ。なんせそこには輝く鱗だの謎の鉱物だの汚れて見える羽毛だの。要するにとにかく、高そうなお宝とゴミ同然としか思えない物体が、なぜか混在しているわけで。
「数が多い。面倒だから先生、個別でなく全体鑑定でお願いします」
誰か気の急いた学園生が叫んだ。
「うむ。私もそうしようと思っていた」
教頭はちらと俺の顔を見た。すぐ「お宝」に視線を戻す。
「楽しみだのう」
いつもの鑑定魔法を詠唱し始める。
「おいでアンリエッタ」
アンリエッタの腰に手を回すと、抱き寄せた。
「一緒に聞こう」
「うん。エヴァンスくん」
ぴったり寄り添ってくる。制服のブレザー越しに、柔らかな体とアンリエッタの甘い香り、それに呼吸の動きを感じる。
「楽しみね。みんな、協力してくれたし」
「いつも付き合ってくれるアンリエッタのおかげだよ。ありがとうな」
「エヴァンス……くん……」
下を向いちゃった。でも自分からも俺の腰に手を回してくれた。そのままきゅっと両腕で抱いてくれたんで、アンリエッタの胸が俺の腕を押す形になる。
「わたくし……その……」
「よしよし……」
「エヴァンスくん……」
もはや衆人の前で抱き合っているも同然であって、本来なら大騒ぎになりそうなものだ。だが大量アイテムの鑑定が進行中とあって、誰も俺とアンリエッタの行為なんか気にしてもいない。
アンリエッタ、あの「てらごや」の日から、なんだか妙に俺にくっついてくるようになったんだよ。なにか……ひとつ境界を越えたというか、思うところがあったのかもしれない。なんせモンスター全員、俺の嫁という、謎設定が出てきたからな。
――全体鑑定――
「おっ、始まったぞ」
誰かが叫んだ。
――ドワーフのミスリル戦斧。スーパースペシャルレア――
――サラマンドラの涙。所有者限定アイテム。スーパースペシャルレア――
――闇寝の羽毛。所有者限定アイテム。スーパースペシャルレア――
「えっ……」
「最初からSSR三連発……」
教室中が絶句した。学園生だけでなく、教室後部に居並ぶ役員や近衛兵までも。
――ヒヒイロカネ鉱物、重量三ステタル。ウルトラレア――
――ネコジャラシの魔草。所有者限定アイテム。スーパースペシャルレア――
――ミノタウロスの宝玉。所有者限定アイテム。ウルトラレア――
「……どこまで続くんだ、これ」
「しかもウルトラレアがふたつも入っとる……」
「ヒヒイロカネが三ステタルも……。嘘だろ、錬金術師の夢じゃないか」
「俺達が見ている……いや見せられているのは、奇跡だ」
「千年に一度だ」
「ミノタウロスの宝物とか、どうやって入手したんだ。出会ったら瞬殺される相手だぞ」
「モンスターの居ないダンジョンだからだろ」
「ならどうして入手できた」
「宝箱がそこら中にあるんだ。それしかありえない」
「過去に大噴火とかの天変地異があったのかもしれんぞ。それでモンスターが全て絶滅し、レアドロップアイテムだけが地上に点々と残されたんだ」
「なるほど。そっちのが説得力あるな。エヴァンスはそれを拾って歩いてるって説か」
「モンスターが絶滅したから、ノーマル以下のダンジョン扱いなのかも……」
「それだ!」
「それで欠番扱いのダンジョンだったのか……。でもなぜ『欠番』ダンジョンを、エヴァンスは引くことができたんだ」
「そこは……謎だな。欠番なら普通はガチャ抽選から外されているはずだ」
絶句の呪縛が解けたのか、今度はどえらくやかましくなってきた。
――ハイドラゴンの
それからも貴重なアイテムが続き、鱗が最後に鑑定されると全員、口をあんぐりと開けてしまった。あれ、「ビキニから剥がれたのよ。股のところはよく擦れるでのう……」と、グウィネスがくれた奴だ。逆鱗だったのか……。そら脚の付け根をいきなり触ったら激怒されるだろ。……ただあの世界では、それはなさそうだが。
「ド……ドラゴンのアイテム」
「ハイドラゴンとか、上位種だぞ」
「ドラゴンだってめったに居ないのに、はるか古代に絶滅した種族じゃないか」
「しかも逆鱗って……」
「触るだけで激怒されて、どんなにおとなしいドラゴンでも相手を食い殺すのに。取れるわけない」
「触るどころか、近づく前にブレスで瞬殺だわ」
「だから何度も言わせんなよ。エヴァンスの固有ダンジョンに、モンスターは居ないんだって」
「結局全部、SSR以上だったぞ。ゴミに見えた奴まで。……さすがにレジェンダリーレアこそ出なかったけど」
「くそっ。リスクゼロで宝箱開け放題なら、俺も潜りたい」
「なんとかエヴァンスのダンジョンに入れないか」
「無理に決まってんだろ。固有ダンジョンに他人が入れるなど、史上一度だってない」
まあ、俺とアンリエッタは一緒に潜ってるけどな。
「エヴァンスくん……」
俺を見上げ、意味ありげに微笑んでくれたので、アンリエッタの腰を撫でてやった。
――以上、推定買取価格、総計四十八億九千万ドラクマ――
「ご……五十億近い……」
「あんな……袋ひとつに詰めただけの……たったあれだけのアイテムが……」
「没落貴族の領地を丸ごと買えるぞ。家名ごと」
「ならもし売れば、エヴァンスは貴族になれるな。……今回は所有者限定アイテムばかりじゃないし。それを売るだけでいい」
「ちょっと前まで……いや今だってエヴァンスは家名すらないただの孤児なのに、一気に貴族成りかよ……。英雄譚の世界じゃないか」
「それよりよ、所有者限定とそうじゃないアイテムの違いはなんなんだ」
「わからん……」
いや、それは俺も知りたい。後でゆっくり考えてみよう。
「その……」
さすがに教頭も声が出てこない。
「これは……その……」
ここ三週間ほど俺がなにも持ち帰らなかったから、ビーフのように陰口を利く奴もいた。でもこれだけの成果を出したんだ。あと一年ずっと空振りでも、もう誰も文句を言わないだろ。
「あの……」
「いいかな」
いつまで経っても教頭が現実に戻ってこないので、焦れたのか近衛兵パーシヴァルが口を挟んできた。
「は、はい……どうぞ」
ようやく、教頭が声を絞り出した。
「エヴァンスは今すぐ学園長室に出頭しろ」
近衛兵は俺を見つめている。真剣な瞳で。
「私もすぐ行く。……あとアンリエッタ嬢も、悪いが付き合ってくれ」
●次話「学園長室の謀議」、お楽しみにー
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