1-3 俺ダンジョンのレアリティー

 ひとりまたひとりと、抽選が進む。確率抽選なので最初はもちろんNやHNがほとんどだが、それで納得する奴はいない。ゼロが並んだ寄付金証文が飛び交い、珠は七色の輝きを繰り返した。


 見ていると皆、最低でもSRを狙うみたいだな。ひとりだけHNで終わった奴が涙目になった。なんでも親が商売に失敗し、ガチャ資金を潤沢に投入できなかったらしい。


「じゃあ俺だな」


 ビーフが立った。


「先生、面倒なので俺は、最初から寄付します」


 今日の最高額を記入した証文を、ぴらぴらと見せびらかした。


「すげえ……」

「九桁見えた……。さすがは金貸しの家系」


 教室がざわつく。


「さあ、ひっくぞーっ!」


「ダナの珠」が明滅を数十回も繰り返す。抽選しても前回より低いレアリティーの場合は表示されないから、見えるのは「HN」「R」「HR」……と、次々高まっていく色ばかりだ。


「どこまで行くんだ、これ」

「今、銀色が見えた。つまりSRだ。まだまだ行くぞ」


 SRを実現してからは、さすがになかなか上位には移行しない。再抽選の輝きが何十回と繰り返されるだけだ。


「おおっ!」


 教室がどよめいた。珠は金色に輝いている。


「SSR。今日イチのレアリティーだ」

「SR+より先に引くとか、豪運だな」

「豪運家系なんだろ、金貸しだけに」


 自慢げに、ビーフは教室を見渡している。それからも抽選は長く続いたが、さすがにUR以上は出なかった。相当に確率が低いからな。


「よし。俺は人生に勝ったっ!」


 ビーフが拳を突き上げる。クラスメイトの大金星を前にしてはいるものの、実はクラスはそう盛り上がっているわけではない。負けて悔しいのだろう。


 結局こいつら、マウントの取り合いで生きてるからな。ここ一年見ていて、よくわかっている。クラス内に、俺の友達などいない。俺はぼっちだ。孤児枠の俺は、みんなのストレス解消役。いじられキャラだからな。


「さて、終わりかな」


 教師が見回す。


「先生、エヴァンスが残ってます」


 教室中のにやにや笑いが、俺に集まった。そら楽しみだろうさ。俺になら全員がマウント取れるから。


「……」


 珠の前に立った俺は、心を鎮めようと深呼吸した。ここにいるおぼっちゃんどもと、俺は違う。この先、自分の力で飯の種を稼がないとならない。そのためには、せめてR、できればHR以上のレアリティーを確保したい。しかも一発で。


「早くやれ、エヴァンス。私はもう戻りたい」


 教師にせっつかれた。早く寄付金を数えたくてたまらないのだろう。


「……」


 無視してもう一度深呼吸した。こっちは人生が懸かっている。教師の嫌味とか、今はどうでもいい。


 珠に手を置いた。ひんやりとした感触だったが、すぐに珠の奥に熱が生じる。


――コロコロコロ……――


 抽選音と共に、珠が明滅を始めた。だがなぜか、七色はすぐに消えてしまった。

なにも起こらない。



「なんだ……」

「壊れたぞ、これ」

「馬鹿な。女神ダナの加護を受けているんだぞ。あり得ない」


 透明に戻った珠を前に、教師も困惑顔だ。だが――。


「見ろ。色が出たぞ」

「はあ? 黒?」

「そんなレアリティー、あったか?」


 教室がざわめく。たしかに黒だ。新月の夜のような闇が、珠に広がっている。


「先生、あれなんですか。ノーマルのレアリティーは青ですよね」

「ま、待て……」


 教師用のダンジョンガチャマニュアルを、教師が端からめくり始めた。


「なんだよ、あれ」

「まさかLR、つまりレジェンダリーレアじゃあ……」

「いやLRは虹色に輝くはず。黒とか、見たことも聞いたこともない」

「あった! ここに書いてある」


 思わずといった様子で、教師が叫び声を上げた。


「なんなんです、先生」

「レアリティーは?」

「エ……エヌマイナス」

「はあ? 『N-』なんてレアリティー、聞いたことないぞ」

「ノーマルの下とか、どんだけ運がないんだよ」

「どハズレダンジョンにも程があるだろ」


 教室中が爆笑の渦で包まれた。


「さすがは孤児枠のおぼっちゃまだ」

「俺、一生分笑わせてもらったわ」

「今晩、女に話しにいこうぜ」

「おう。娼館でも大笑いになるだろうさ」


 口々に馬鹿にする。


「どうする、エヴァンス」


 一応……といった様子で、教師が投げやりに口にする。


「ガチャ、引き直すか」

「それは……」


 教室中、興味津々といった顔が並んでいる。俺がどう答えるか全員、わかってるからな。


「無理です。……俺には金が無い」


 またしても大笑いが巻き起こった。


 だが、俺を馬鹿にしくさっていたクラスメイトは、俺が持ち帰った成果に圧倒され、半日後に涙目になったんだ。あの日、俺ダンジョンでなにが起こったかというと……。



●次話、「謎ダンジョンの美少女スライム」。

初日の課題「ダンジョンから戦利品を持ち帰れ」を受け、どハズレダンジョンに潜るエヴァンス。謎のダンジョンでエヴァンスを待っていたのは、自分はスライムだと言い張る、リアンという美少女だった……。ヒロイン登場! お楽しみにー!

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