第278話 許容するかしないか

 きっかけは、蒼唯がリリスのダンジョン核を弄りながら呟いた一言であった。


「後は送り主くろまくがどこまで許容するかですね」

【どこまでと言うのは? 何を指しているのでしょうか?】


 そうリリスから尋ねられ際、蒼唯はきょとんとしてしまう。蒼唯自身、声に出しているつもりは無く自然と声が漏れてしまったのである。


「です? 声出てたです?」

【はい。珍しく深刻そうな声色で呟いてなさってました。それで、許容とは?】

「別に大した事じゃねー…いや、リリスには関係してる事ですね一応」

【一応?】


 ダンジョン核を弄っていた蒼唯が漏らした言葉がリリスと一応程度しか関係ないとは思えないのだが、蒼唯としてはそう言う認識なのであろう。

 聞くのも怖いが聞かないと取り返しの付かないことになるのは明白なため、リリスは聞かざるを得ない。

 

 ただ、蒼唯の返答は予想に反してまっとうなモノであった。 


「ダンジョン核に施された隠蔽から考えるとです、この隠蔽を越えた先の情報は、送り主くろまくからすれば公開するつもりの無い情報な筈です」

【そう、ですね】

「でも私はこれから解析する予定です」

【はい】

「私の存在は、送り主くろまく的には想定外な筈ですが、その想定外を許容するか否かが気になったです……何ですその顔?」


 先ほどまで可愛いダンジョン核を等と言ってた人と同一人物だとは思えないとは言えないリリス。


【いえ、蒼唯様がそのように相手の考えを気にするのが意外でしたので】

「出たとこ勝負は好きですけど、それじゃ間に合わない場合くらい私も考えるですよ」

【間に合わない、と言いますと?】

「次の送り主くろまくの一手は何だと思うです? 私の予想ですけど、ダンジョン核に施した隠蔽を応用して、スキルを無効化するモンスターとか放って来るですよ」

【それはっ!】


 送り主くろまくは全知全能な存在ではない。少なくとも何らかの法則に縛られている存在である。

 それはこちら側から隠したかった情報の解析が規格外とは言え1人間である蒼唯に出来た事から断言できる。

 であるならば、送り主くろまくがいくら蒼唯を許せなかったとしても、所謂神の力で蒼唯を抹消とはならない筈である。


 であればどうするか。

 蒼唯がパッと思い付くのは、ダンジョンマスターよりも上位の手駒を使う手法。つまりスキルやらジョブ等の法則には縛られない手駒モンスターを使う事であった。


「なので私の勘が当たってればですけど、そういったスキルが通じないモンスターの目撃情報が既に協会に上がってるかもです」

【だから私に関係があると】

「リリスは、協会のトップですし」


 確かに一応、リリスに関係のある話である。協会の仕事の問題を考えるよりも先に、そのようなモンスターが前のように直接リリスたちを襲う可能性など考慮する問題は山ほどあるだろうというツッコミは置いておいて。


 蒼唯の懸念は理解できたリリスは話をまとめようとする。しかし


【ご配慮ありがとうございます。では、送り主くろまくが想定外を許容できる程の器の持ち主である事を願っておきましょう】

「えっです? リリスは何を聞いていたです?」


 先程よりもさらにきょとんとした顔を蒼唯にされてしまうリリス。


「許容出来ないってことは、今から解析する送り主くろまくの思惑そのものって事です。これが私たちにバレたら計画が破綻するって事です」

【はい】

「つまりは底が知れてるって事です。それなら話は簡単です。でも許容するって事はです、はバレてもよい程度のモノか、若しくはバレても構わないと思えるくらいには、まだまだ送り主くろまくに余裕があるって事です。どっちがヤダです?」

【後者です】

「よねです」

  

 許容できず爆発されるのは確かに困るが、準備不足甚だしい爆発であれば対処は可能である。

 それならば想定外すらも予想して計画を立てている者の方が遥かに怖いというものであった。


【では、送り主くろまくが許容していた場合は、まだ何も起きないと】

「わからんです。私たちへの意趣返しにぬいたちの邪魔くらいはするかもしれねーですね」

【ぬい様方の元にスキルが通じない敵が! ……大丈夫そうですね】

「です」


 規格外な敵の出現予想に一瞬焦ったリリスであったが、その程度の規格外では更なる規格外ぬいとまっくよ相手には荷が重いと考え直し、冷静さを取り戻すのであった。


―――――――――――――

 

 一方その頃、とあるダンジョンでは


ぬいぬこいつぬいへん!」

まくまねむりまくまあさい~」

ぬいぬいはえにくい

【……zzz】


 まっくよが眠らせたにしては珍しくイビキをかき、ぬいが生やしたにしては疎らに茸を生やしたモンスターが横たわっていたのであった。

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