第277話 スキルでは視えない

 地球が大きな菌床になった挙げ句、眠りに支配されると言うか字面で見たらバッドエンドでしかない結末を阻止したリリスであったが、そこは敵ではなく味方に畳み掛けられることに定評のあるリリス。次なる危機が迫ってきていた。


「コピーと機能的にはおんなじ筈ですけど、雰囲気…オーラが違うです?」

【細かいことは私にも分かりかねますが、出来れば手短にお願いいたします。蒼唯様の御力でそれの優先度は低くなったとは言え、私の心臓部の一つであることに変わりはありませんので】

「大丈夫です」

【蒼唯様が自信満々な表情をなされると、不安が募るのですが…】


 現在リリスは、普段蒼唯が好き勝手に魔改造して遊んでいる複製品ではなく、正真正銘本物のダンジョン核を蒼唯にさらけ出していた。

 蒼唯の言では、単に解析をするだけとの事であるし、それに協力する意思も有った。それでもこれまでの経験からあの表情を浮かべた蒼唯に、自身の分身とも呼べるダンジョン核を晒す事には本能的に恐怖を覚えてしまうリリス。


「解析してるとごく稀に好奇心に負けて色々弄っちゃう事があるくらいで心配しすぎですリリス」

【それは正当な心配だと思うのですが!】


 そんなリリスの叫びは、蒼唯の作業部屋に悲しく木霊するのみであった。

 

 そんな冗談を交えつつ解析を進める蒼唯。

 彼女が何か物を解析する際、前までは『真理の眼』で視た上で、『錬金術』でモノの構造を探っていっていたのだが、『錬金術』スキルを捨てて以降は、基本的に『真理の眼』に頼った解析を行っていた。


 そのため、の存在に気が付いたのは、蒼唯がダンジョン核を弄くる気満々であったために、『真理の眼』と併用して、錬金術も用いて解析をしたためであった。


「あん、です?」

【どうかされましたか?】

「いや…錬金術だと確かにのに『真理の眼』だと視えないです?」

【何かあったのですね】

「あったにはあったです」

【やはりダンジョン核には隠された何かがあったのですね】

「いや、うーん、隠されては無いですね。いや隠されてはいたです?】


 ダンジョン核のコピーを作り出せる程度にはダンジョン核の構造を理解している蒼唯が、初めて感じる何か。

 その何かは錬金術を用いての解析を開始してすぐに、その存在を感じ取れるほど堂々としていた。

 どれ程注意散漫であったとしても、前の解析の際にこれを見逃すなどあり得ないほど堂々と。


 ただ前に解析した時と今を比べ、そして今回感じられた方と視れなかった方の違いを考えれば自ずと答えは見えてくる。


「…中々なセキュリティですね。これは普通なら気が付かんです。まあ運でもなんでも突破できたなら関係無いです」

【蒼唯様?】

「ああ、ごめんです。自己完結してたです。つまりです。ダンジョン核の中にの解析をすり抜ける隠蔽が施されてたです」

【スキルでの解析の無効…成る程。蒼唯様は『錬金術』スキルを捨て独力で錬金術を行使しておられますから気が付けたと。流石です】


 ダンジョンに入れば自動的にジョブを与えられ、それによりスキルも得る。このようにスキルを自在に操れる送り主くろまくからすれば、スキルでの解析を無効化するプロテクトを掛けるなど容易いのだろう。

 そしてそのような事を容易くできる存在であっても、スキルを捨てた上でスキルと同等以上の現象を起こせるようになる者が現れる想定は出来ていなかったのだろう。


「まあ、取り敢えず私はこれを詳しく解析してみるです。とは言え『真理の眼』で視れないせいで錬金術での手探りのみですから時間が掛かりそうですけど」

【…途中で解析に飽きて私の核を弄くり回さなければいくらでも時間を掛けてくださって結構ですよ】

「……ちょっとくらいなら」

【可愛いダンジョン核を! というスローガンを掲げる限り蒼唯様にその許可は出せません】

「……残念です」


 まあ、そのような厳重なプロテクトを掛けた秘密のシステムを運良く発見出来たにも関わらず、飽きてダンジョン核の可愛い化を進めようとする人種を想定するというのが無理な話なのかもしれないが。

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