第279話 食欲優先

 上位存在であり、スキルの全てを熟知した送り主くろまくが産み出したスキルが通用しない怪物モンスター。本来であればこの怪物の登場は、凄惨な現場と甚大な被害を引き起こす筈であった。


ぬいぬいおいしい!」

まくまほんと~」


 しかし、絶対者の判断により初登場場所が死地になった事により、何も成せず登場後即座に膝を突き、茸と睡魔にまみれた最期を向かえ、現在は『食トレ』の餌食となっていた。

 『食トレ』は蒼唯がぬいたちに直接付与したスキルであり、蒼唯大好きっ子なぬいたちからすれば特別なスキルである。そのため意識せずとも自然に『食トレ』の強化の選択肢にランクインしていった。

 その結果スキルが通用しない筈のモンスターに、通用してしまうほど規格外なスキルを育て上げてしまった『食トレ』であるが、今度は『食トレ』の本領である食事面でもその性能を発揮する


ぬいいいぬいぬにおい

まくまくみためも~」


 『食トレ』には、所有者の成長を促す食材をより美味しそうに知覚する、という副次的な効果が付いているのだが、ぬいたちの目の前に転がっているモンスター伊達に送り主くろまくが産み出しただけの事はある程度には美味しそうな見た目と匂いをしていた。


まくまくだめだ!」

ぬいなに?」

まくあおまくまくほうこく!」

ぬいぬやばいぬぬほぼぬいぬたべた


 そのため食べることに夢中となってしまったぬいたちは、そのモンスターの殆どを平らげた頃になってようやく、スキルが通用しない特殊個体を蒼唯やリリスへの報告用に残して置いた方が良いという思考が生じ、


ぬいぬいどうする?」

まーくうーんまくまたべる!」

ぬいよし! ぬいあとぬいぬいあやまろ!」


 それでも尚、食欲が理性を上回った結果、事後報告完食済する事に決定してしまうのであった。


―――――――――――――――――


「と、多分ぬいたちならそんな感じで食べきっちゃうと思うです」

【私もそのような気はしますが】

「まあ、今私は、スキルで解析できない隠蔽を触り放題ですし、そっちはぬいたちが美味しく食べちゃった方が結果的には良い気もするです」


 ダンジョン核の情報に施された隠蔽に触れてみた蒼唯な感想として、スキルが通じないメカニズムを解明した所で意味は薄い気もしている。

 解明した所で現在示されている対抗策である、蒼唯が行ったスキルからの脱却や、ぬいたちが行ったスキル自体を従来の枠組みから逸脱させるやり方以上のモノが見つかるとも思えない。


【やる気を出してください。細かく解析すれば送り主くろまくと戦うとかってなった時の切り札になり得るかもしれませんよ】

「戦うって、そんな予定はねーですし、もしそうなったらぬいとまっくよで囲んで、もふもふです」


更に言えば、戦闘関係の対策には蒼唯はあまり口を挟まない傾向にある。ぬいたちを信頼しているのも一因ではあるが、門外漢な分野への無駄な口出しはしない主義なのである。


【もふ…ですが、こはく様等のスキルにより防御面を補っている方々の元に現れたら危険ではありませんか】

「…確かにです。分かったです。ちゃんと解析はするです」


 しかし友達の安全問題となれば話は別である。攻撃が通じないも問題だが『耐性』スキルや『遮断』スキルを無視した攻撃が友達を襲う可能性の方が蒼唯にとっては遥かに問題なのであった。

 そのためやる気を取り戻した蒼唯を見て、上手く話をすり替えれた事にほっと息を吐くリリスなのであった。

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