第272話 空中遊泳
蒼唯は自分の造りたい欲を最優先に考える傾向にある。結果として有用なアイテムが続々と造り出されてはいるが、それは可愛いの副産物に過ぎないのである。とは言え一応彼女も作り手として需要と言うものは理解している。
今後増えてくるかも分からないが、現状では水中ダンジョンは殆ど存在しない。そんな中ほぼ『海中の神殿』のために造られた『ちょっと
「おお、やっぱり人魚姫の泳ぐ速さは圧巻です。まあ水中の方がもっと速いとは思うですけど」
「まく~」
「ねぇ、本当にあってるかな? 色々と飲み込んで人魚姫に変身しての初泳ぎがプールサイド外周なの、何かやるせなくなるんだけど! せめてプールの中入っていいかな!」
「まだ水冷たいですし、体冷えちゃうです」
「人魚姫の格好でプールサイドぐるぐるしてる方が冷えるよ、心が!」
そのスキルとは『空中遊泳』。空中を自在に泳げるようになるだけのスキルであり、上空に行くほど空気が薄くなり、その分泳力も下がるため『飛行』や『浮遊』スキルの下位互換と見なされる所謂、外れスキルであるが、その真価は泳力の化物が持つことによって発揮される。
「そうです? 似合ってるですよ。輝夜は私みたくチンチクリンじゃねーですし」
「蒼唯はチンチクリンじゃなくて小さくて可愛いの、てか私も人前でこの格好できるほど…ってそうじゃなくて!」
「前に輝夜が言ってた攻撃力不足は、機動力と手数で補えると思うです。坪さんに鍛えられた輝夜なら高速で泳ぎながらでも上手く剣を扱えるですよね?」
「うぐ、蒼唯って急に真面目になるよね」
「私はいつでも真面目です」
「可愛いに対してはだよね。ありがとう」
人魚姫の姿に変身した輝夜が、高速且つ自在に空中を泳ぎ回る。その上で多彩な剣術を叩き込まれれば敵からしてみれば堪らない。
元々、『不落要塞』の2つ名で知られていた秀樹の1番弟子として、防御には定評のあった輝夜。彼女の弱点を敢えて挙げるのならばそれは同レベル帯の探索者の中では劣る純粋なパワー。それを補う術として蒼唯は圧倒的なスピードを提案した。
「よし! ちゃんと人魚姫スタイルの研究がしたいんだけど、今日ってまっくよって時間あるかな?」
「どうですまっくよ?」
「まくまく! まくま~!」
「…………ぬい?」
「あ、ぬいが生えたです。ぬいも暇ですよね」
「ぬいー?」
「いきなりじゃぬいもビックリしちゃうよ。ごめんねぬい。ちょっと私の特訓の相手になって欲しくて――」
その提案を輝夜は受け入れたのであった。
―――――――――――――――――
蒼唯作のアイテムを見たい。蒼唯とお近づきになりたい等、幾つかの思惑があり蒼唯の『海中の神殿』捜索及び探索用アイテム発表会を見学していた新入生たち。
「で、新入生諸君。発表会を見て見てどうだったかな? 蒼唯さんと輝夜さんに無理を言って君たちの見学を認めてもらった手前、何かしら得るものがあると嬉いんだけど」
そんな彼らであるが、見学を終え蒼唯たちが去っていった後も誰1人として帰ろうとしない。先輩からの呼び掛けにも誰も返答できないままである。
「蒼唯さんにとってアイテム製作は可愛いモノを造るためのついでに過ぎないの。で、あの性能。凄いよね」
「そんなの…冗談だと。あんなに才能があるのに」
「伝説の錬金術師『蒼の錬金術師』渾身のアイテムが私たちを軽く凌駕する性能を発揮するのは耐えられても、1つ上の可愛いもの好きな先輩蒼唯ちゃんがついでに造ったモノが……じゃ耐えられないよね。分かるよ」
なまじ蒼唯が身近になってしまった故に、その絶望は大きかった。
「特に探索者を真剣に目指してるなら尚更ね。私たちもそうだったの」
「先輩たちも」
「高位探索者何十人規模でも攻略出来なかったダンジョンを攻略した『ぬいぐるみ』を造った目的を聞いたら、睡眠の質を高めて趣味活を円滑にしたいだよ。ショックでしょ?」
「は、はい」
「だからこそ、今日皆を呼んだのは、輝夜さんを見て欲しかったの」
「輝夜先輩を?」
「そう。蒼唯さんっていう幼馴染みが隣にいて、それでも諦めるでも頼りきりになるでもなく、探索者の矜持を持って努力し続けてる輝夜さんを」
探索者に興味の無い幼馴染みが世界最高の探索者と呼ばれている環境で、それでも腐らず、かといって蒼唯を拒絶することなく居れる輝夜の姿に勇気を貰っている者は、案外この学校に多いのであった。
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