第270話 苦手な隠し事

 『天空の城』が攻略されたとの発表から半月ほどが経過した。

 その間、探索者たちは公表された新たな『試練の迷宮』である『地底の遺跡』と『海中の神殿』を懸命に捜索したが、未だに録な手掛かりすら得られていない状況であった。


 輝夜が所属する『流星』も『天空の城』から脱落した者から順々に『地底の遺跡』や『海中の神殿』の捜索に移っているが、結果は芳しくないとの事であった。


「そんなに難しいです?」

「難しいよ。海の方はもう全然だし、地底の方は…あっても確度の低い噂程度だもん」

「噂です?」


 そもそも探索者は既にあるダンジョンを探索する者である。リリスたちが元々暮らしていた異世界にいた『冒険者』等ならば兎も角、探索者たちにとって新たなダンジョンの捜索なんて門外漢であり、捜索が難航するのも当たり前ではあった。

 

「そ、犬の散歩してたらそれらしいダンジョン見つけたとかそんな程度の…」

「その噂本当ですよ?」

「まく~」

「えぇ! って何で蒼唯たちがそれ…って犬ってぬいのこと!」

「ぬいぬ!」

「ぬいじゃなくて、こはくです」

「ぁあ、そっちか。…だから『流星』から先生ていうかこはく宛に依頼しても断られたのか」


 『探索者』には門外漢である。であればその道のプロに頼めば良い。人探し物探しの専門家であるのが『探偵』。ならば『名探偵』であればダンジョン探しお茶の子さいさいであろう。

 そう考えた多くのギルドが『名探偵』こはくを頼った。神の迷宮である『知識の泉』で『賢神』ミミルと友達のように親しくしていたため、あわよくば神から情報をという思惑もあり依頼の数は途轍もない量になったと聞いている。

 

「で、前の配信とかでもそうですけど、こはくに注目が集まり過ぎるのもってことで協会経由で噂を流してるです」

「あぁ、そっか。先生も優梨花さんも協会とかに知り合い多そうだもんね」

「……まあ、そうです」

「なんでそんなビミョーそうなの?」

「別にです」


 協会の知り合いとはリリスであるため、2人の知り合いという意味では間違ってはいない。しかし言わんとしがたい感情が芽生えた結果の間違ってはいないけどなぁーの顔であった。

 そんな顔をした蒼唯を見て不審に思う輝夜。蒼唯は隠し事やらが苦手なタイプである。感情が顔に出るタイプではあるが、隠し事の場合は顔に出すよりも先に口から隠し事が出ちゃうタイプなため、あからさまに顔に出るのも珍しい。


 つまりそれほど言っちゃいけない秘密なのだろうと想像がつく。普段から、明らかにヤバめな秘密を輝夜だからという理由で詳らかにする蒼唯が隠すほどの事実。

 これまでの蒼唯との思い出を振り返り、やぶ蛇確定演出だと理解した輝夜はすっと話題を変える。

 

「そういえば、結局ぬいたちは『試練の迷宮』にはノータッチなんだね」

「報酬とか言って、訳分からんモノを付けられるダンジョンと『食トレ』は噛み合わせが悪いです」

「まく~」

「ぬいぬ!」


 『食トレ』で自分が望むスキルを得られるぬいたちにとって、勝手にスキルを付与してくる『試練の迷宮』の優先度は低い。


「そっか。でもこの前、『天空の城』攻略したのって…」

「ベアーくんとフェフェです? あの2匹には『聖神の祝福』ってのが付いてたです。沙羅たちの装備品にも同じのが付いてたですから、2匹も装備品扱いって事ですね」

「そうなんだ。それだとぬいたちだけで攻略しても称号は得られないかもってこと?」

「ぬいたちとベアーくんたちじゃ魂の規格とか別物ですから一概には言えんですけど、その可能性もあるです。なら別に無理にやらなくてもって話になったです」

「ぬいぬい!」

「まく~」


 前々から議論されているモノの中に、出現するダンジョンの難易度上昇に探索者たちの成長が追い付いていない問題がある。

 その問題を解決すべく、日本探索者協会の裏のボスとなったリリスも奔走し、一定以上の成果は出ている。しかし如何せん、蒼唯たちが主な原因と目される異世界化進行の方が速いの焼け石に水であった。


 そういった経緯もあり、尚且つぬいたちに食べ過ぎないでねと言っても、2匹っきりだと、いざ豪華な食事を目の前にしたらダンジョンごと平らげちゃうことは想像に難くないため、スルーかもしくは前の合宿のように皆で行くのが無難という結論に至ったのであった。

 

 

 

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