第264話 責任という名の
リリスは困惑していた。
ですです言いながらリリスの顔の周りを歩き回るぷちアオにも、それを真似てかリリスの足元をくるくると回るぬい、まっくよにも。そして、そんな3匹を放って思考の海に浸っている蒼唯にも。
【あ、あのー】
「ですです」
「ぬいぬ!」
「まくま~」
「容器とかに入ってる空気、もしくは室内締め切って室内の空気、とかなら一つの素材としてイメージできるですけど、任意の空気一塊を対象にするってなると…です」
何故このような状況になったのか考え、原因は先ほどの蒼唯の発言であると思い出す。
【あ、あの、蒼唯様?】
「なんです?」
【先ほどの発言をもう一度仰って下さいませんか?】
「です? まあ、良いですよ。ぷちアオは『錬金術』を捨てた私を気に入らないみたいです。反対にリリスには良く懐いてるっぽいですから、ぷちアオはリリスにあげるです」
「ですです!」
「ほら、ぷちアオも喜んでるです」
蒼唯の推測ではあるが、ぷちアオに生えた魂は、蒼唯の『錬金術』に意思が宿ったものである。
そんなぷちアオが、元の主人とは言え『錬金術』を邪魔者扱いして捨てた蒼唯を好ましく思っていないのは理解できる。理解できるのだが、それで何故リリスに懐いてしまうのだろうか。
「まあ、さっきの手際をみる限り『錬金術』の腕前も上等です。本人曰く、可愛いじゃなくてポーションとかの消耗品造りを所望してるっぽいですのは驚きですが」
【蒼唯様に捨てられたショックで意思が宿った結果、アンチ蒼唯様的思考が強く反映されているのかもしれませんね…】
「そんなもんです?」
ぷちアオの口から、可愛いを捨ててやる宣言をしている様子は、どことなく蒼唯(偽)を彷彿とさせた。
ぷちアオのそんな宣言に、蒼唯たちはとても驚いていたが、リリスとしては蒼唯に捨てられた事で蒼唯とは異なる道をという思考は全うであるように思えた。
というか、捨てられたのに未だにすがり付く『聖神』エルエルという悪すぎる代表例がパッと思い付いてしまったが故に、多少なりともぷちアオに好感が持てたのかもしれない。
「です?」
「口調はこんなに似てるのにです」
「ですです!?」
【…取り敢えず、どちらでも構いませんので、私もぷちアオと意志疎通出来るようにしていただけませんか?】
とは言え好感が有ろうが無かろうが言葉が通じなければそれ以前の問題である。
蒼唯たちが何の問題もなく意志疎通しているため忘れられているかもしれないが、未だにリリスには、ぷちアオ自慢のですです言葉はそのまま、ですですとしか聞こえないので、ぬいやまっくよの時にも行った魂の
―――――――――――――――
日本探索者協会が管理する工房にぷちアオを連れて帰ったリリス。
最初は『賢インコ』と一緒に探索者協会長の部屋に居て貰うことも考えたのだが、ツールの一つとして『錬金術』を使っていた蒼唯と異なり、『錬金術』こそが生き甲斐のぷちアオから、思う存分『錬金術』をしたいとお願いされた故の事であった。
「です~!」
【た、大したことはしていないから、こう言うプレゼントは大丈夫よ】
「です…」
【ま、まあ今回は受け取るわ。ありがとう】
「です~♪」
リリスとしては本当に分からない事なのだが、ぷちアオはリリスに対する好感度は凄まじいものである。
リリスが命じれば、どんなモノでも造りだしプレゼントしてくるのでは無いかと思えるほどにである。
【……『霊薬』やら『神薬』やらが造り放題。蒼唯様の『錬金術』を十全に使えると考えればそれ以上も…はぁ】
振り回される側で感じる重圧には慣れ始めたかと思っていたリリスであったが、それとは別に振り回す側の責任の重さがリリスの身体にのし掛かってくる。
【これが振り回す側の重圧。こんなモノを蒼唯様はいつも耐えて……いや、違うわね。振り回す側の重圧を蒼唯様はノールックで投げ捨てるから、捨てた先の私が背負う羽目に…はぁ】
こうしてリリスは、ぷちアオを得たことにより、リリスの立場がどうなろうと、最終的に責任という名の重圧はリリスに集約されるという現実を分からされる結果になるのであった。
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