第263話 蒼唯にはない発想

 付喪神つくもがみという存在がある。長い年月を経た道具に魂が宿り、意思を持ったものの総称であり、非日常ファンタジーが蔓延る現代においてなお、フィクションと断じられている概念であった。


「まくま~」

「ぬい!」

【まさか、とは思いますが、蒼唯様はこれを想定されていらっしゃったのですか?】

「まさかです。私もこれは想定外です」


 しかし、本当にそのような存在が目の前に現れれば、存在が非現実的な蒼唯たち一行でも閉口してしまう。

 

 余にも珍しい付喪神の誕生に気が付いたのは今朝、まっくよの『小常闇』から目を覚ました蒼唯は、彼女が造った、とある人形が小刻みに揺れていることに気が付いたのだ。

 ぬいやまっくよ、リリスへのプレゼントとして造った『賢インコ』のメティスのように、魂を付与した『ぬいぐるみ』であれば身体が動くのも理解できるが、その人形にはとあるスキルの容器として蒼唯が用意したモノなため、当然ながらそれ以外の機能は付与されていなかった。にも拘らずその人形は動いたのであった。

 

「というかこれはどちらかと言えば道具に魂が宿ったと言うよりも、スキル意思が宿ってるですね。何だかややこしいです」

「まく~」

「ぬい?」

【まあ、捨てられたとは言え、蒼唯様の『錬金術』となれば特殊な挙動をしてもおかしくは無いとも思われますが…】


 そして付喪神かしたモノこそが先日、蒼唯が捨てた『錬金術』であり、それを入れておくために用意した『縫包もふもふ化』状態の蒼唯を模したぬいぐるみ人形である『ぷちアオ』であった。

 本来、動かすことを想定した造りになっていないので、動くと言うよりも『錬金術』を使って揺れているという様子であるが、しかしながら『錬金術』が使われていると言うことは、何かしらの意思がぷちアオに宿っている証拠であろう。


「…取り敢えず、意志疎通が出来ないと不便ですから、声を出せるように造り替え――」

「まくっ!?」


 そうであるならばと、蒼唯がぷちアオを改造しようと触れようとした瞬間、ぷちアオは蒼唯から逃げるように空中へ浮き上がる。そしてそのまま空中に留まり蒼唯を見下ろすのであった。


【浮いた…しかも留まっている?】

「…空気、気体を対象にした『錬金術』です? 考えたことも無かったですけど、見事なもんです」

【気体? そのような事が可能なのでしょうか!?】


 『錬金術師』である蒼唯には、空中に浮かび上がる際や空中に留まり続けている今、ぷちアオが『錬金術』を行使していることが分かる。

 それ故に空気に『錬金術』で干渉していると推理できたが、それが可能な事かと言う問いには答えられない。


 蒼唯にとって『錬金術』とはモノ造りのためのツールの一つである。そして蒼唯がモノ造りで一番拘るのが可愛いかどうかである。つまり外見である。

 いくら固定観念と言う単語が蒼唯の辞書に無いのではと思うほど柔軟発想をする蒼唯であっても、視認性が悪い気体を『錬金術』の素材の一つとして考える筈が無いので、知らないのも当然と言えた。


「ぬ、ぬい!」

「自分の身体を改造したです?」

 

 そうやって蒼唯たちが困惑している間に、ぷちアオはぬいぐるみの身体に『錬金術』を施す。自己改造により言葉を発せられる身体になったぷちアオはこう言い放つのであった。


「ですです!」

「な、なんですってです!」

「ぬいっ!」

「まくま~!」


 その衝撃的な言葉に驚く蒼唯、ぬい、まっくよ。そして


【別れたといっても鳴き声はですなのですか……それで、何故蒼唯様方はぷちアオの声を理解できるのでしょうか?】


 別の意味で驚くリリスなのであった。


 

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