第262話 蒼唯がいる学校

 蒼唯を目当てに進学を決めた新入生たちもそれなりの数いる一方、当然だがダンジョンや探索者業界に疎い蒼唯みたいな新入生たちもいる。

 そんな新入生が先ず始めに驚く事は、当然のように廊下を闊歩する『ぬいぐるみ』の存在であろう。知らない者からすれば、普通の猫と見間違えてしまうくらいには精巧に造られているまっくよは、事情を知らない新入生を混乱させる。


「野良猫が入り混んじゃったのかな??」

「あ、あれは、まっくよだよ! 蒼唯先輩の……えーと、『ぬいぐるみ』なんだよ」

「はぁ?」


 とは言え、蒼唯の『ぬいぐるみ』は世界中で有名であるので、調べれば山のように情報は得られる。そのため、まっくよが『ぬいぐるみ』であることは飲み込むしかない。

 

 しかし、まっくよは、廊下を闊歩するだけに留まらず、朝のホームルーム前や昼休みに各教室に現れ、希望者に眠りを授けていく。

 

「これが、この高校名物の『お昼寝時間』かー!」

「昼寝、高校生になって昼寝かよ!」

「いやいや、まっくよ様に睡眠を授けられる凄さをお前は分かってないよ! 大金積んででもまっくよ様に眠らされたいって人はごまんといるんだから」

「ま、まぁ、確かに入学式の眠りは最高に気持ち良かったけども…」


 そして、それを当然のように受け入れている周囲の様子に戸惑いつつも、徐々に睡魔に侵されていくのであった。


 それ以外にも蒼唯の影響は学校中に広がっていた。


「えーと、先輩? ここに置かれているアライグマっぽい置物ってなんですか?」

「ああ、それ? それは…洗濯機的なやつだよ」

「的な?」

「まあ、そのアライグマに部活で出た洗濯物を渡せば……ほら綺麗になった」

「ええっ! 泥でぐちゃぐちゃだったユニフォームがぁ!? 真っ白」


 蒼唯のクラスメートであった運動部マネージャーの愚痴を聞いた蒼唯が、昼休みに造った『丸アライさん』は、どれほど頑固な泥汚れであろうと一瞬で新品のように綺麗にできる。

 このような普通の学校には設置するには高性能すぎるアイテムが学校中にあるのだ。


「なんか齋藤先輩の作品ってめちゃくちゃレアで高価なイメージだったんですけど」

「そのイメージは間違ってないよ。でも蒼唯ちゃんは仲良しな子とかお世話になった子には優しいから。副担任の先生のお子さんが蒼唯ちゃんのファンだからって、お子さんのお誕生日にプレゼントしたりとか」

「仲良くなれば手に入るってことですか?」

「悪いこと言わないから止めときな。その考えで蒼唯ちゃんに近づいて成功してるの見たことないから」


 蒼唯が造りたいと思う切欠は、アイテムの性能ではなく、可愛さを誉められた時である。

 昔はそこまででは無かったが、蒼唯が世間に知られるようになり、蒼唯のアイテムを欲する人が爆増した結果、性能目当てかどうかを見分ける眼力も鍛えられた蒼唯に対して、欲に目が眩んだ者たちによるおねだりが成功した事例は無いのであった。


「この1年でこの学校、凄まじく快適になったし、去年とは比較にならないくらい進学実績とかも上がってるしで良いこと尽くしなんだよ」

「は、はい」

「だから蒼唯さんに迷惑掛けるようなことだけは止めような?」

「わ、かりました!」


 そんな蒼唯を知らない新入生たちも蒼唯がいる学校生活に徐々にではあるが慣れていくのであった。

 

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