第256話 大したことない※当社比

 テディベアの肉体から、元々の人間の肉体へと魂を戻し終えた蒼唯。

 ダンジョン核を用いた転生のためそれなりにスムーズに移すことができたとは言え、魂が身体間を移動するというのは、魂へ相当な負担を強いることになる。


「まぁ、喰った魂の中で消化しきれず余った余剰を身代わりに使ったですから、特に問題は……」

「……ぬいぬい?」

「まく?」


 蒼唯(偽)の魂を『茸喰いのこイーター』で栄養とした蒼唯。ぬいたちの『食トレ』よりも茸に特化した分吸収効率は高く余剰は出さない公算であった。

 しかし、蒼唯(偽)の魂には、食べても美味しく無さそうな不純物が混じっており、吸収すると体調を崩しそうだと考えたので、それを消費することで負担を最小限にした。


 そのため転生による魂の移動による負担は殆ど無い筈であった。蒼唯もリリスたちにそう説明をしていた。


「うーむです。これは中々です」

【どうかされましたか蒼唯様?】

「ぬいぬ?」

「まく~?」


 それなのにも関わらず蒼唯の顔色がどんどんと悪くなっているように見える。その上、蒼唯自身も想定外なのか困惑の表情を浮かべていた。


 蒼唯がそのような様子を見せるのは珍しいため、リリスたちも心配そうである。


「っと、そんなに心配そうにしなくて良いです」

【ですが…】


 そんなリリスたちに気が付いのか蒼唯は平気そうなアピールをするが何だか弱々しい。

 食べられる前に偽物が、何やら意味深な台詞を発していたことも相まってリリスたちの心配はどんどん深まっていく。


「ぬいぬい!」

「まくま~!」

「別に大したことじゃねーです。さっき食べた魂の栄養価が思ったより高過ぎただけです」

【それだけですか?】


 蒼唯の発言は嘘では無いかもしれない。しかし、普段ぬいたちが食べ過ぎてしまい胃もたれを起こした場合、それを癒しているのは蒼唯である。  

 それならば、顔色が悪くなる前に何とかすれば良いだけの話に思える。しかし蒼唯の話は続く。


「今回の食事で私の魂、この場合だと私の魂に付与されてる『錬金術』スキルですね。それが強化され過ぎたです」

「ぬいぬ?」

「だから心配するなです。単に強化されたスキルに私の肉体が耐えられずに崩壊しそうなだけです」

「まく!?」

【めっちゃくちゃ大したことじゃ無いですか!】


 さらっと、とんでもない事が蒼唯の口から発せられ、聞いている全員がぎょっとする。

 低位な素材にスキルを詰め込みすぎたため素材自体が崩壊する様子は、蒼唯と一緒に生活していれば何度も目にしている。しかしそれが生物の、しかも主人である蒼唯で起こるかもと言われれば動揺しない方がおかしい。


 しかし全員を驚愕の渦に巻き込んだ本人だけは冷静である。

 

「取り敢えず『縫包もふもふ化』です。この肉体なら耐えられるです。ねっ、大したことじゃ――」

「ぬいぬい!」

「まくま!」

「ごめんです」


 蒼唯が周りを心配させまいとしているのか、それとも素なのか。素なのだろうが、蒼唯に何かあれば皆が悲しむということを彼女は知るべきであろう。

 

 衝撃の発言から少し時間を起き、皆が冷静さを取り戻し始める。

 

【…蒼唯様の冷静さから鑑みるに、肉体崩壊を避ける方法はあると考えて宜しいのでしょうか? 勿論、応急措置的な方法ではなく根本的な解決策です】

「はいです。取り敢えず思い付くので3つです」

【3つも?】

「1つは探索者的な方法、もう1つは、これは推測にすぎんですけど、偽物の私が行ったであろう方法、最後に…色んな人に怒られそうな方法です」

【3つもあって、期待できそうな方法が1つも、無いではありませんか!】


 探索者的な方法は蒼唯が採用しなさそうであるし、偽物の方法は結果として失敗が示されている。そして皆に怒られる方法とくれば、折角取り戻したリリスの冷静さは、直ぐに失わされるのであった。






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