第254話 これも全部シリアスが悪い
蒼唯は考えた。
何故、蒼唯(偽)の行動の目的は何なのか。なぜ可愛いを失ってしまったのか。本拠地で魔リリスを恨むような素振りを見せたのはなぜなのか等々、分からないことが多すぎたためだ。
しかしより深く考えれば考えるほど、ぬいやまっくよが間違えるほど似ているとはいえ他人と言っても差し障りの無い蒼唯(偽)の事を真剣に考えるのが馬鹿らしくなってくる。
蒼唯がすべき事は可愛いモノを造ることである。そうであるならば、蒼唯(偽)に対して行うべき行動は、理解しようとすることではなく、対処であり排除である事に気が付く。
【はぁ…どんなになっても蒼唯様は蒼唯様という事でしょうか】
そう思考を切り替えると、先程までウンウンと頭を悩ませていたのが嘘のように、思考が冴え渡るのを感じる。
「それですリリス。私、良いことを思い付いたです!」
【……もう何も思い付かないで欲し――っと、今の話のどこら辺に良いことを思い付く隙間がありましたでしょうか?】
「ぬいぬ?」
「まくま?」
「もう1人の私の事を深く考えるのは面倒ですから止めるです。手っ取り早く問題を解決して私は可愛いモノを造りに戻りたいんです」
それは全員の総意であるが、言うは易く行うは難しである。
ぬいとまっくよの胞子による奇襲が失敗した今、簡単に解決できる相手ではないとリリスたちは考える。しかしそれこそ過大評価だと蒼唯自身は思うのだ。可愛いに囲まれておらず、支えてくれる仲間もいなさそうな自分など大したことはないと。
「リリス視点、成長してたみたいですけど、所詮は私です。ぬいやまっくよ、リリスがいたならもう少し警戒しても良いですけど」
【……それでは、どのような作戦を思い付いたのでしょうか】
「私とあっちの私は、ぬいやまっくよが間違えるくらいには、魂レベルで遜色無いですよね?」
「ぬいぬい」
「まく~」
「だったら……」
蒼唯の作戦を聞いた一行は様々な反応を示す。リリスは慌てふためき、まっくよは呆れ、ぬいは歓喜した。
しかし最終的には蒼唯の一存で作戦は決行されることとなるのであった。
――――――――――――――――――――
仇敵の1人である『
【『夢魔姫』の言うとおり復活機能事態を潰せなかった故ですか。…なぜ私が可愛いに固執しているあの子の機能を潰せなかったです? 技術的には既にあの子を凌駕してるはずですけど】
そのため、先の戦いを振り返り反省する『蒼唯』。
そんな彼女の元に生き残った『ホムンクルス』たちが集まってくる。
【なんです? ああ、別に問題は無いです。ぬいたちの転移、逆転移は既に阻害してるです。暫くは奇襲は無いと考えて良いです。…それにです。相手側も敵が私だと理解したですし、慎重にならざるを得ない筈です】
彼女の僕である『ホムンクルス』たちは心配そうにしているが、問題はない。
『ホムンクルス』の製造場所であった此処は捨てなければならないだろうが、それさえ済ませれば、本気で潜伏した『蒼唯』を見つけ出す事など『蒼唯』自身であっても、可愛いを犠牲にして得た圧倒的な『錬金術』を持つ彼女自身であっても、不可能であるという確信があった。
しかしその確信は砂上の楼閣であったと知るのは、それから直ぐのことであった。
ここ数年の経験からあらゆる感覚が鋭敏となっている『蒼唯』は、即座に異変に気が付く。
【これは転……それは阻害して、る、しかも……これ
違――】
何処かに引っ張られる感覚。一瞬、転移系スキルが阻害を上回ったのかと考えた『蒼唯』だが、その考えは即座に捨てる。
これまで『ぬい』たちによって経験してきた喚ばれる感覚と、今回の感覚が明確に違ったのだ。しかし何処が違うのかなどを考える余裕は遂ぞ無く、『蒼唯』は何処かへ消えるのであった。
この世界の蒼唯よりも少し大人びた身体を残して。
「ぬいぬい?」
「まくま~?」
【成功したかどうか分かりませんね、これでは】
『蒼唯』が目を覚ますと目の前には、ぬいとまっくよ。そして『夢魔姫』が並んでいた。
これまでの経験から瞬時に危険を察知した『蒼唯』は直ぐに距離を取ろうとするが、何故か身体が動かない。
脳がパニックを起こしそうになるのを理性で押さえ付け、多少冷静さを取り戻した彼女は、周囲を見渡すことで自身の身に降り掛かった事態を把握する。
【なぁ、なんで私の身体が茸になってるです!】
把握してしまったからには、冷静ではいられない。目が覚めたら身体が茸になど、今時物語でも見掛けない奇天烈な状況である。
「ぬい!」
「まく~!」
【おお、一応は成功ですかね、蒼唯様?】
周囲の冷静な反応も『蒼唯』のパニックを助長させる。
しかしここにこの世界の蒼唯がいるのであれば、無様を晒すわけにはいかないと、残った理性を総動員させようと試みる。
しかし、よく周りを見渡してみても蒼唯らしきモノは見当たらない。いるのは、ぬいとまっくよと『夢魔姫』。……そして地面に置かれたテディベア。
明らかにその場に不相応なテディベアに『蒼唯』が違和感を覚えたその時、テディベアから知っている声が聞こえてくる。
「です。危なかったです。取り敢えず私が茸に受肉するっている事態は回避できたです。セーフです」
【……ならばそもそも、選択肢から茸を除外すべきでは?】
「茸好きな、ぬいが悪いです」
「ぬいぬ!?」
目が覚めたら身体が茸になっていただけでも衝撃的なのに、そんな自分を完全に無視した挙げ句、この事態を引き起こしたであろう人物はテディベアになっている。
事態の意味不明さに思わず『蒼唯』は声を挙げてしまうのであった。
【何がどうなってるです!!】
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