第253話 どんなになっても

 無事帰還を果たしたリリスを熱烈に歓迎した後、これからについて考える一行。

 敵の目的がどうであれ、敵の正体と居場所が判明すれば『迷宮の壊し屋ダンジョンブレーカーズ』による殲滅劇で解決だと楽観視していたが、相手が根幹たる可愛いを失ったとは言え、油断していればナニをされるか分かったもんではない。


 そして、敵が蒼唯(偽)だと判明した今、蒼唯がリリスを同行させた意味も理解できる。つまり、蒼唯は『ホムンクルス』を解析していた時点で、もう1人の自分がいる可能性を考慮していたことになる。

 

【蒼唯様は、ご自身の偽物…と言うよりもう1人の蒼唯様が存在することに気が付いておられたのでしょうか?】

「『ホムンクルス』くらい複雑なモノの解析はもっと時間が掛かるのにです、障害が何もないかと思うくらい簡単に出来すぎたです。それでもっと詳しく解析したら、製作とか『錬金術』の癖みたいなのも全部私っぽかったです」

【でしたら言ってくだされば…】

「ぬい」

「あのときは、もし私なのだとしたら、何でこんな可愛くないものを造ってるんだろうって方が気になっちゃってたです。ごめんです」

「まくま~!」


 それならば仕方ないとまっくよが言う。

 まっくよも、眠らすことに興味を失った自分の痕跡が見つかれば正気ではいられないだろう。

 ぬいもリリスも、それは十分に理解していた。


「ぬいぬい!」

【そうですね。それに、蒼唯様の提案のお陰で全員無事に帰還できましたし】

「それなら良かったです」


 可愛いを失った蒼唯を見た全員が動揺していた。特に動揺を引き起こす側であったぬいやまっくよは、立場が逆転したことで思わぬ脆さが露呈した。

 そんな中、これまでの経験から、とんでもハプニングへの耐性が有り余るリリスがいたため何とかなった所があり、そのリリスを同行させた蒼唯の功績とも言えるだろう。


 謝罪も終わり、本格的に今後の事について考え出すぬいたち。


「ぬいぬ?」

【そうてすね。結局、敵の目的は分からず仕舞いでしたね】

「まくま~?」

【取り敢えずダンジョンを消滅して回っているぬい様方を邪魔したのですから、ダンジョンが無くなるのは敵としても困るということでしょうか? 蒼唯様(偽)が可愛いを失った謎も含めて分からないことが増えましたね】

「前者は兎も角です、後者は私だけの問題じゃねーです?」


 自分が可愛いを失う姿など想像も出来ないが、それは解明しなければならない謎なのかは疑問に思う蒼唯だったが、リリスたちの意見は違う。

 

【蒼唯様は、あの蒼唯様(偽)を見ていないからそんなことが…ですよねぬい様、まっくよ様!】

「ぬいぬい!」

「まくまく!」

「そうです? それならそっちも解明するですよ。私としては助かるですし」


 彼女たちからすれば、可愛いを失う蒼唯などもう見たくも無いのだ。そんな最悪な未来に繋がる可能性が一ミリでもあるのであれば、その芽は摘んでおかなければならない。

 

 とは言えである。幾つかの謎を解明するでも、蒼唯(偽)を倒すでもそうだが、もう一度蒼唯(偽)と対峙する必要があるだろう。

 しかし相手も馬鹿ではない。今回と同じ方法で奇襲を仕掛けることは難しいだろう。


【威勢良く言いましたが、結局私たちに出来ることは、ダンジョンを壊して回ることくらいでしょうか?せめて蒼唯様(偽)の目的なりなんなりが分かれば…】

「それに関しては1つ、思い付いた事があるです」

【と、言いますと?】

「前にリリスが凄く疲れてた時に私が提案した事を覚えてますか?」

【疲れ…いつも、いえ、すみません。覚えてません】


 基本的に蒼唯の提案でリリスが疲労するか、リリスが疲労している時に畳み掛けるように提案するかの二択なので、疲労、提案というキーワードだけでは検索結果多数で絞り込めないリリス。


「あれです。『異世界化』がどうのって言ってたときです」

【ああ、ダンジョン核を媒介に星に『錬金術』を……ふぇ!?】


 そこまで言われれば、リリスも思い出す。

 ブレーキ役を諦めかけたリリスは、その蒼唯の提案を聞いて諦めるのを諦めたのである。


「世界各地に転々としてるダンジョン核を自由に使えば、今の私でも地球規模の『錬金術』は出来るかもです。問題があるとすればダンジョン核を使おうとすればマスターたちは抵抗するですよね?」

【勿論です。ですが…】

「テロによって取り返しの付かない損害が出た上に、テロのせいで一般人どころか探索者も寄り付かなったダンジョンは、その維持も儘ならなくなるです」

【弱りきったダンジョンに、大規模な『錬金術』の侵略があっても抵抗なんて出来ないかもという話でしょうか?】

「あくまで可能性です。けど、見ただけでリリスを、魔族を殺そうとする程な私が、ダンジョンは消滅して回らない理由を考えたらそうかなって思うです」


 可能性と蒼唯は言っているが、その目は確信している目であった。

 そうであるならリリスたちは、その前提で動くだけである。


【はぁ…どんなになっても蒼唯様は蒼唯様という事でしょうか】


 そうため息を吐くリリスの表情は台詞とは異なり朗らかであるのであった。

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