第252話 生死よりも何よりも

 『ホムンクルス』の解析を一通り終え、蒼唯が作業部屋でゆっくりしていると、ぬいとまっくよが床からのこっと生えてくるのが見える。


「ぬいもまっくよも、あんま床からは生えないようにって――どうしたです?」

「ぬいぬい!」

「まくま~!」


 家をもふもふにした際、内装も改造しており、ぬいたちが生えるための専用スペースもこの家には完備されていた。

 それなのに普通に床から生えてきたぬいたちに苦言を呈そうとしたが、いつもと明らかに様子が異なる2匹を見た蒼唯は、苦言を引っ込めて心配する。

 ぬいたちは、そんな蒼唯の優しさを確かめるように、存分に甘え散らかすのであった。


 十分に蒼唯成分を補給したぬいたちは、正常な思考を取り戻した。それにより自分たちが、蒼唯(偽)と『ホムンクルス』が犇めく場所にリリスを放置して帰ってきた事を思い出す。

 蒼唯(偽)だけでも手に余るのに、量でも負けてしまっては、いくら戦闘玄人なリリスでも分が悪すぎる。とぬいたちは考え、焦った様子で蒼唯に状況を伝える。


「なら、ぬいが『神茸師』で生やしてあげればいいです?」

「ぬいぬい!」

「なるほどです。ぬいたちに逃げられたから逃走禁止ギミックでも作動させたです?」


 更にぬいたちを焦らせたのは、いつでも何処でもリリスを呼び出せた、茸栽培スタイルでの召喚が不発に終わった事であった。

 ぬいたちが普通に逃げられた事を踏まえると、敢えてなのかは兎も角、現在は転移系スキルでの逃走は封じられているのだろう。

 しかしその報告を聞いた蒼唯は、特に慌てた様子も見せず平然としていた。

 

「ぬいぬいぬい!」

「まくま~!」

「そうです? でもリリスには『縫包夜行もふもふしゅうらい』もあるですし、いざとなればで取れる手段はぬいたちよりも多いですよ」


 と言っても相手は蒼唯である。いくら言葉を紡いでも完全に不安を払拭することは出来ない。

 リリスを帰還させればぬいたちの不安は解消されるだろうが、蒼唯が思い付くリリスを強制召喚する方法は、どれも本人リリスを実験台にした挙げ句、

【2度と、2度とやらないで下さい】

と忠告されたモノばかりなため使えない。


 となると蒼唯たちが取れる手段は待ちしかない。


「まあ、最悪敵に倒されれば…っと噂をすればです」

「ぬい!? ぬいぬいー」

「まくま~」

【あぁ…どうにかこうにか復活できましたか】


 待つこと数分。リリスは第2の心臓であるダンジョン核を媒介に復活を遂げ、蒼唯家に無事帰還を果たすのであった。


「転移系スキルを阻害するギミックが転生系スキルの『死併せしあわせ』は適応外で良かったです」

【なるほど、意外に紙一重だったのですね】

「じゃなかったら、前にリリスに怒られたアイテムシリーズを倉庫部屋から引っ張り出さなきゃならんとこでしたです」

【本当に紙一重だったのですね。良かったぁー!】

「です?」


 生死の問題よりも、蒼唯のアイテム関連の話題でより大きめの安堵を漏らしたリリスに小首を傾げる蒼唯。


「ぬいぬ!」

「まくまく~!」

【いえいえ、ぬい様方のお役に立てたのなら。はい】


 それでも、安堵し本当に喜んでリリスにじゃれにいくぬいたちを見れば、些細な問題なのであった。


 



 


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