第243話 自分の事は自分で

 蒼唯の家は、蒼唯の手によって魔改造されもふもふになった。

 リリスたちが蒼唯の家に来れない理由である、『吉夢の国』を襲った黒幕の正体や目的が判然としないまま、襲われたリリスたちが蒼唯たちの元にいると危ないというのを、家の防衛性能を高めるという形で解決しようとしたのだ。


「この家を造るので一番上手くいったのは『ぬいぐるみ』造りの技術とダンジョン機能を組み合わせれたことですね」

「ぬい?」

「まくま?」

「流石に動かない家に『食トレ』とかは付けんです。付けたスキルは『家事いえごと』くらいです?」


 『ぬいぐるみ』の技術と聞いて真っ先に思い付くのが『食トレ』なため、ぬいたちは2人して家のどこに口があるか探し始める。

 その仕草に蒼唯は呆れ気味で訂正するのだが、蒼唯なら平気で『蒼唯の動く家』を造りかねないと思われていることに気が付いていない。

 

「ぬいぬ?」

「そりゃそうです。元来、自分の事は自分でやれって言われてるもんです。家事いえのことは家にやって貰うのが一番です」

「まくまく~」


 気が付いていないから平気でこう言う事を言ってしまうのであった。


 こうして誕生したもふもふな家を見ていたぬいたちは、新たなもふもふ仲間の名前を知りたがる。


「まくま~?」

「ぬいぬ!」

「名前です? この家の。いつもなら私がつけるですけど今回は流石にです」


 しかしベアーくんやフェフェがそうであるように、蒼唯は名付けは持ち主がやるべきだと思っており、今回の場合この家の持ち主は、両親である。


「気は進まないです。でも仕方がないです」


 蒼唯の両親は2人とも忙しく、家を空けている事が多かった。特にクリスマスに発生したダンジョン災害以降はほとんど家にいない。

 両親が家に帰ってきた時に名前を付けて貰うという案もあったが、それまで名無しなのは心苦しい蒼唯は渋々、両親に連絡することにするのであった。


――――――――――――――――――――


 齋藤勇作が妻の青葉と珍しく昼御飯を食べている最中に、電話が掛かってくる。

 

「…誰?」

「あぁ、あれ? 蒼唯からだ。何だろ?」


 勇作から蒼唯に電話を掛けることはよくあるが、蒼唯から電話が掛かってくることは珍しい。

 しかも今は春休み中であり、学校関連のアレコレでもなさそうなので特に。


 勇作が電話に出ると、蒼唯の声は少し沈んでいた。

 

「もしもしです父さん。今忙しいです?」

「えーと、いや大丈夫だよ。蒼唯が電話なんて珍しいけど、何かあった?」

「あったと言えばあったです。えーと、あ、母さんは近くにいるです?」

「うんいるよ? 代わる」

「それは大丈夫です。なら2人に質問するですけど、家に名前を付けるとしたら何て名前にするです?」

「家に名前?」


 唐突に謎の質問をしてくる蒼唯。しかし娘がこういった謎質問をしてくることは日常茶飯事である。

 こういった場合、理由を聞いても理解できない事が多いので、勇作は取り敢えず家の名前を考えることにする。


「何? 家の名前って」

「蒼唯から家に名前を付けるならって聞かれたんだけど」

「名前ねぇ…そうね。シルスとかかしら?」

「それは『妖精の家シルキーハウス』から取ったのかい? 可愛らしいね」

「次案で『蒼唯の住まう大きなお家』とかでもいいわよ」

「シルスでいこう」


 家に名付けたい欲は無い勇作は、青葉のアイディアを採用しそのまま蒼唯に伝える。


「そうですか! シルスですね。良い名前です。ありがとうです。シルスも喜ぶと思うです!」

「喜ぶ? 誰が…切れてる」


 すると直ぐに電話は切れてしまったので、結局何故名前を聞かれたのかも分からないままであった。


「何だったんだろ?」

「蒼唯の事よ。どうせ家をもふもふにしちゃったとかその程度よ」

「その程度? 家がもふもふは大事だと思うけど!?」


 


 

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