第242話 もふもふ求道者

 これまでの蒼唯は、『錬金術』を用いての製作活動に勤しむ過程で、一般的な生産職の者たちがマストで行っている、装備によるスキルやステータスの強化、底上げという行為はしてこなかった。

 使う材料が重かったり量が多かったりする場合に運搬目的等で装備品の恩恵にあずかることはあったが、それくらいである。

 何故、それを行わないかと言えば理由は単純である。

 

「別に『錬金術』が上手になっても、製作物の可愛さレベルがアップする事もそんなにないですし、いちいち着替えるのが面倒です」

「ぬいぬい」


 蒼唯にとって、『錬金術』の向上による利点は、着替えに掛かる僅かな手間に劣るものであった。

 そうでなくとも、現状の『錬金術』を用いれば大抵のモノは、イメージ通りに作り上げることが出来る。性能には、可愛さに求めるような拘りが乏しい蒼唯であるため、現状の『錬金術』の腕で要求基準を満たしていたことも大きい。


「それにです。装備を造っちゃうと装備してない時が全部手抜きみたくなっちゃうです」

「まくま~」


 そしてなにより、蒼唯はモノ造りには真摯な方である。そのため、装備を造ってしまえばそれを使わずモノ造りをすることに、罪悪感を感じてしまいそうな気がしていた。誰に言われるでもなく、自分で自分を手抜きだと断じてしまう気がしていた。

 蒼唯にとって、モノ造りはあくまで趣味の範疇である。そのため、負担を感じず、何にも気兼ねせずに活動を続けるためにも装備の類は造らないでいたのだ。


「でも仕方がないです。リリスのダンジョンがあんなになっちゃったのにです、着替えメンドーですなんて子どもみたいな事も言ってられないです」


 しかし、リリスが危機に晒されたことにより蒼唯は決心したのだ。一肌着る決心を。


【と、特に人的被害もありませんでしたし、蒼唯様が何か決心なさらなくとも……いえ、ありがとうございます!】

「どういたしましてです?」


 その決心の言葉を聞いたリリスは一瞬、蒼唯を説得して装備を脱がせようと画策した。しかし直ぐに考え直す。

 着替え面倒という理由で、能力大幅アップ確定の装備品を付けてなかったと言うのであれば、同じ様な些細な理由で行っていないヤバめな事象が潜んでいる可能性を危惧してのことであった。 



 斯くして蒼唯特製の錬金術師用のセット装備『もふもふ求道者』を身に付けた希代の『錬金術師』蒼唯が爆誕することとなった。


「さてとです。さっき両親に許可を貰ったですから、家の改造に着手するですか」

「ぬい!」

【ああ、早速…】

「リリスやルーシィが何も気にせず来れるような家にしとくですから、ルーシィにも言っといてくれです」

「まくまく~!」

【分かりました。お伝えしておきます。蒼唯様方もご無理だけは為さらぬようにお願い致します。では1度ルーシィ様の元に戻りますので】


 そして、目を離すとどうなるか身に染みて理解したリリスとしては、蒼唯の考えの通り家を魔改造してもらい、敵側の動向を気にすることなく、気軽に来れるようにして貰った方が良いと判断したのであった。


―――――――――――――――――――


 蒼唯は生産職としても異例な、ダンジョンに行かない系の探索者である。蒼唯は自らを探索者とは自称していないが、この場合定義的にも探索者かどうか怪しいレベルでダンジョンに寄り付かない。

 それなのに探索者の中でトップクラスにダンジョン事情に詳しいのであるが。

 

 話を戻すが、ダンジョンに寄り付かない蒼唯は、『錬金術師』やそれに関連するスキルの熟練度や関連ステータス以外の成長は壊滅的である。


 そもそもの話、『錬金術師』はそれなりに難度の高いスキルであるため普通の生産職よりもレベリングは必須とされている。初心者が初期ステータスで成功するなどまず不可能なジョブであるのだ。

 しかし『錬金術師』に重要なイメージ力や感覚に天賦の才がある蒼唯は、ステータスなんてただの飾り、を無自覚に行ってしまった結果、今のお家引きこもり錬金術師が完成してしまったのである。


「うーん、大規模錬成なのになんかすいすいできて気持ち悪いですね」

「ぬいぬ?」

「まあ、別に悪いことじゃないですけど」

「まくま~」


 そんな天賦の才を持ちながら、ステータスに頼らず確実に技術を向上させてきた蒼唯が、装備の力でステータスも手に入れたらどうなるか。リリスでなくとも想像がつく。

 

「なんかイメージよりも凄くなっちゃった気がするです。……お母さんは兎も角、お父さんは泣いちゃうかもです」


 取り敢えず言えることは、汗水流しやっとの思いで建てた我が家が、少し離れていたら愛娘によって、もふもふにされていたら泣くところでは済まないのではないだろうか。


 

 




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