第241話 ここは私が一肌

 『吉夢の国』に現れた『ホムンクルス』。リリスの話では、ルーシィの『命令権』が通用したとの事なので、対処はそこまで難しくないように感じる。


 一方、リリスの説明では『ホムンクルス』は蒼唯で言うところの『ぬいぐるみ』であるとの話であり、今回送り込まれた『ホムンクルス』たちにも製造者がいる事になる。

 そしてその者の詳細は、蒼唯がリリスにプレゼントした『賢インコ』のメティスですら把握できていない。


「メティスでもダメなら普通のやり方での情報収集は難しそうです?」

「まくま~?」

「ぬいぬい!」


 先ほどリリスの前では、そこまで警戒心を見せていなかっただけに、今回の件を急に気にし出す蒼唯を珍しく思うまっくよたち。


「まあねです。敵の最大戦力がその『ホムンクルス』なら別に良いです。でもそうじゃないなら対策は必要です」

「ぬい?」

「…リリスも、本体がダンジョン核のままだったら、今回の襲撃はかなりヤバかったと思うです」

「まく~」

「リリスも私たちには感じさせまいとしてたですけど、動揺が漏れ出してたですし」

「ぬいぬい」

「まくまく~」


 しかし、それがリリスを心配しての事であるならばと納得する。

 今回は一番被害が少ないからという建前で、崩壊するダンジョンに『ホムンクルス』たちを生き埋め状態で放置するという策を取ったが、実際『吉夢の国』の戦力的に『ホムンクルス』に対抗できそうな存在は『魔王』ルーシィか、もふもふなリリスくらいしかいなかった。

 最早、一般的なダンジョンマスターからすれば自爆に等しい作戦を実行するしか無かったのだろう。


「それに、この問題が全部解決しないと、リリスが安心して家に居れなくなっちゃうです」

「ぬいぬ!」

「まくまく~」


 敵側にリリス生存を知られているかどうかは分からないが、仮に知られていれば、リリスの元に『ホムンクルス』が送り込まれる可能性もある。

 それを警戒しているため、リリスは『吉夢の国』が消滅した事を蒼唯に知らせず、そして今も蒼唯たちの家に帰らず日本探索者協会の土地に隠れている。


 その気遣いを蒼唯たちに恩着せがましくせず、さらっと出来るのがリリスの良いところである。しかし迷惑である。有り難くすらない。


「変なのに襲われる事になったとしても、リリスが家で家事とかやっててくれた方が嬉しいです。仕方がないです。私が一肌…いや、着ます!」

「まく?」

「ぬいー」


 色々と考えた挙げ句、蒼唯は謎の結論に着地するのであった。


―――――――――――――――――――

 

 リリスは蒼唯たちが『ホムンクルス』に襲撃されるリスクを侵してでも、蒼唯から目を離すべきではなかった。

 否、リリスが蒼唯から目を離したからこそ、蒼唯は一肌どころではなく着ることになったので、目を離すべきであったのだ。


 ブレーキ側かアクセル側かで意見は異なるだろう。そして生粋のブレーキ側であるリリスの意見は勿論決まっている。


【うわー……こりゃダメですね】

「え? 似合ってないです?」

【いえ、大変お似合いですよ。似合いすぎてびっくりしてしまいました!】

「良かったです。性能とかも拘ったですけどやっぱり、見た目も大切ですから」

【ははは…】


 目を離した事を著しく後悔していた。

 そんな内心頭を抱えているリリスの目の前には、いつものラフな私服とは打って変わって、『錬金術師』らしい服装に身を包む蒼唯の姿があった。

 

「って言っても、私にしては性能も拘ったですから安心するです!」

【性能と言うと?】

「まあ、ザックリ言えば……『錬金術』が上手に出来るようになるですね」

【…………そうですか】


 それ以上に、という言葉を必死に飲み込んだリリスは、一言だけポツリと呟くのであった。


 


 

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