第239話 襲撃者は

 普段からぬいやまっくよと共に行動している蒼唯やリリスの魂には、マーキングの要領で茸の胞子が根付いている。

 『茸師』では、発芽している茸、つまりサタンのような状態の者しか生やせなかったが、スキルが成長し『神茸師』となった今では、その前段階の者も気軽に生やせるようになっていた。


「ぬい!」

【そ、そうですか】

「って、本当にそんな説明してる時間無いです。この『簡易インスタントダンジョン』もうあと5分くらいで崩壊するです」

【インスタント……気になりますが、後にします。蒼唯様方が私を生やしたのは、『吉夢の国』が襲撃された件についてですね?】


 呼び出された側のリリスの方が気になる点が多すぎる現状を疑問に思いつつ、昨日発生した、『吉夢の国』消滅事件についての説明を始める。


【襲撃者は三人。夢対策をしていたのか、『吉夢の国』のセキュリティが全く役に立ちませんでした。そのためルーシィ様が一時的に対応してくださったのですが、ルーシィ様曰く、相手は純粋な生物では無いとの事でして…】

「純粋な生物じゃないです?」

【はい】

「ぬいぬ?」

「まく~」

「そうです? ぬいたちは…まあ純粋かどうか聞かれたら分からんですね。可愛いですけど」


 純粋な生物じゃないと言ってもイマイチ分からない蒼唯たち。そんなことを言えば『ぬいぐるみ』も純粋な生物とは言い難い。

 そんな事を冗談まじりに話題にあげると、リリスの顔は少し強ばる。


【……先ほど『賢インコ』のメティスに聞いたところ、『ホムンクルス』と呼ばれる人造人間との回答を得ております】

「ほむん…」

【可愛い所だけ抽出しようとしないでください。『ホムンクルス』です】


 『錬金術師』が目指す到達点の一つ、それが『人造生命体ホムンクルス』である。

 例えるならば可愛くない『ぬいぐるみ』である。


【少なくともステータスだけならば、『悪夢の国』を食い荒らした頃のぬい様、まっくよ様に匹敵していたかもしれません】

「ぬいぬ!」

「まくまく~?」

「それは中々です」

【これはマスタールームから見ていた私の感想なのですが、『ホムンクルス』たちは此方の戦力についてある程度把握しているようでした。ルーシィ様が登場した瞬間、1人が足止めをし他2人は散開しておりました。別れた2人は明らかにマスタールームを狙っているような動きをしておりました】

「ダンジョンに詳しい敵ってことです?」

【それはあると思いますが、ほぼ引きこもりライフ満喫中のルーシィ様の事を知っているかのような動きは説明できません】


 蒼唯たちを調べた結果、『吉夢の国』との結び付きに気付くのは分かる。

 ダンジョン研究は各国が行っているので、誰かがダンジョンマスターの存在に気がつくのも予想がついた。

 しかしルーシィの厄介さを知っているのは腑に落ちないリリス。雰囲気やオーラでルーシィを強者だと判断したとしたら、3人で集中攻撃してくるべきであろう。

 そうすればルーシィの『命令権』で一網打尽であったのだが。まるでそうなることが分かったから3手に別れた様子であった。


「というか、敵の正体はメティスに聞いたですよね?」

【敵の黒幕も、という事でしたら、分からないそうです】

「分からないです?」

【はい】

「敵はダンジョンについて詳しく、引きこもってるルーシィの情報すら収集しているくらいの情報通で、尚且つ自分の情報はメティスすら分からない存在ってことです」

【はい】

「なんだか面倒そうな相手ですね」

【面倒そうで済むのは蒼唯様くらいですよ】


 普通なら面倒そうくらいでは済まないのだが、蒼唯の感想はそれである。

 そんないつも通りマイペースな蒼唯を見てなんだか安心するリリス。


【それで、ダンジョンの来園者たちの避難が終了した折を見て『吉夢の国』を自己崩壊させて、『ホムンクルス』たちを閉じ込めたって感じです。ダンジョン核だけが本体ではない私だから可能な自爆技ですが】

「それで消滅ですか」

【はい。幸い、魔力があればダンジョンは何度でも産み出せますし、此方に人的被害はありません。今は日本探索者協会の土地に逃げ込んでおります】

「なるほどです。それなら…あ、もう崩壊の時間ですね。大体分かったです。取り敢えず私たちも家に戻るですね」


 大体の説明を聞き終えたタイミングで『簡易インスタントダンジョン』のリミットが迫ってくる。


【は、はい。というか崩壊するのは良いのですが、私はどうなりますか? ま、まさか食べませんよね!】

「まく~?」


 となれば、リリスの召喚を解除する必要があるのだが、ぬいの召喚解除の被害者代表のサタンの食われっぷりが脳内にチラついてしまう。

 

「ぬいぬ?」

【い、いえ。不満とかではなくですね。サタンは茸状態だから良いのであってですね?】

「ぬいぬい?」

「あの、そのですね」

「ぬい!」


 段々とリリスに近づいていくぬいに対して、どんどん小さくなるリリス。

 そしてぬいのキュートな口先がリリスに触れようとしたその瞬間、ぬいはリリスにお手をした。

 それによってリリスの召喚は解除された。


「まく~」

「ぬいぬ?」

「いや、ぬいならパクッと食べ解除するかもと私も思ったですよ」

「ぬいぬ!? ぬいぬい!」


 リリスを含め全員が食べるのかと身構えた事に、ぬいだけは心外そうにするのであった。


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