第237話 初日から夜更かし

 『地底の遺跡』の中層付近まで攻略を進めたぬいたち。合宿初日としては十分すぎる進捗状況であった。

 特に戦闘も避けずに進んだため、戦利品であるモンスターの素材やドロップアイテムもとんでもない量になったが、ぬいや秀樹たちは、蒼唯印の『時空鞄』を所持しているため、持ち運びに困ることは無かった。


「あら、本当に沢山ね。…ちらほら茸に侵食された素材もあるけど。これはぬいとまっくよ用かしら?」

「ぬいぬい!」

「まく~」

「ぬいもまっくよも、結構な頻度で茸爆食いしてる筈ですけど、飽きないもんですね」


 『地底の遺跡』には、比較的食用っぽいモンスターも出現する。ミノタウロスやドラゴンなどである。しかしゴーレム等の無機物系のモンスターも多く、持ち帰ってきた素材の多くは、『ぬいぐるみ』たちでなければ食べようとも思わない類いのモノであった。

 そのため、蒼唯たちの目の前で繰り広げられる優梨花の調理風景は、まるで大規模DIYを見ているようであった。

 それでも出来上がったモノは、『食トレ』を持っていない蒼唯が見てもちゃんと美味しそうに見えるのだから流石である。


「じゃんじゃん作っていくから、じゃんじゃん食べなさい『ぬいぐるみ』たち」

「ベアー!」

「フェ~!」

「あ、秀樹さんたちの料理も作っていくから、あっちに用意したのも遠慮せず食べちゃって」

「うん、ありがとう。優梨花たちも食べなよ」


 こうして凄腕料理人の手によって料理(?)が量産されていくが、大食いな『ぬいぐるみ』たちによって食い尽くされてしまうので、優梨花は暫くキッチンから離れられそうにない。

 そんな中、僅かなスキマを縫って、一般人用の料理も作ってくれているれている妻を心配した秀樹は、声を掛ける。


「あ、それは大丈夫です。料理中の味見で結構、お腹膨れてるです」

「まく~」

「まあ、摘まみ食いとも言うです。私はこれからベアーくんとかフェフェの『食トレ』サポートをしなきゃならんですから多少はです」

「多少、にしては食べ過ぎてた気もするわね。まあ、私もそれなりに食べちゃったから人の事は言えないけど」


 そうやって師匠と弟子が笑い合いながらも、作業は止めないのであった。

 こうして、合宿初日の夜は、『ぬいぐるみ』たちの成長度合以外はとても微笑ましく幕を閉じるのであった。



 そして一夜明けた合宿2日目。

 昨日は遅くまで、沙羅たちと可愛いモノ談義に花を咲かせており蒼唯にしては珍しく寝不足であった。

 普段なら夜更かし警察なまっくよも、ベアーくんやフェフェと初めてのお泊まりに興奮気味であったことから、気持ちは分かってくれたようだ。それでも『ぬいぐるみ』組はまっくよによって、とっとと寝てしまったが。


「ふぁ、眠いです」

「まく~」

「可愛いモノ談義は有意義ですし、こういう機会じゃないと……えっです!?」


 そんな眠そうな蒼唯を咎めるように見てくる、まっくよから逃れるように、携帯端末を開く蒼唯の目に信じられないニュースが飛び込んでくる。


「ぬい?」

「これ見るです」

「まく~、まく!」

「ぬい!?」


 驚いた蒼唯がぬいたちにソレを見せると、ぬいたちも一緒になって驚く。

 それもその筈である。蒼唯たちが目にしたニュースのタイトルは、『レジャーダンジョンとして有名な『吉夢の国』消滅か?』であったのだった。

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