第236話 視線を感じる

 それは『地底の遺跡』を探索するぬいたち一行が、ぬいが生やした大きな茸型の家『茸のお部屋マッシュルーム』で休憩を取っている時であった。

 こはくが何かを感じ取る。

 

「わん!?」

「ぬい?」

「どうかしたこはく?」

「わんわん!」


 こはくが感じ取ったのモノは、詳細不明なれど視線らしきモノであった。それが何処からの視線なのか確認するため、こはくが辺りを見渡すが茸しかない。


「わふぅ」

「ぬいぬい!」

「あ、うん美味しそうだね。でも今気になるのはそれじゃないんでしょ?」


 ぬいが見た目や風味、味にも拘った茸ハウスなだけあり、こはくも謎の視線を忘れてよだれを垂らしてしまう。すかさず秀樹がツッコミを入れ話題を戻す。


 とはいえ、感覚の鋭い秀樹やぬいですら謎の視線を感じ取ることはできない。

 しかしそれもその筈である。こはくが感じ取ったのは、『神域』から除き見ている『聖神』エルエルや『賢神』ミミルの視線である。

 普通なら『神域』からの神々の視線など感じ取れるモノではない。感知スキルなどを使っても同様である。それを蒼唯印の装備品を身に付けているとはいえ、直感的に感じ取れる、こはくが異常なのである。


「くぅん」

「ぬいぬ?」

「優しい視線? ダンジョンで優しさが感じられる事はあんまり無いと思うけどな」


 それか、友神である『賢神』ミミルの視線であったため感じ取れたのかもしれない。



 ぬいたちが、謎の視線についての話題で盛り上がっている一方、沙羅たちはこれまでの道中の話題で盛り上がっていた。

 『地底の遺跡』は『天空の城』と同等かそれ以上の難易度を誇っていた。沙羅と七海、ベアーくんとフェフェが力を合わせても最深部まで行くのに2ヶ月程度掛かったダンジョンと同程度の難易度。

 しかしそこにぬいたちが加わったことで、進行速度が常軌を逸していた。


 保護者兼ベテラン探索者としての秀樹の指揮能力も見事であるし、沙羅たちも『天空の城』を攻略することで探索者として十分すぎるほど成長している。『ぬいぐるみ』であるベアーくんとフェフェなど言わずもがなである。

 しかしそれでも尚、目立つのは『茸犬ぬい』と『名探偵こはく』であった。

 

「ぬいが強いのは蒼唯さんの話とかから知っていましたけど、純粋なステータスからして強すぎるのに、茸を使った制圧力の高さが…」

「ベアー!」

「それを言ったら、こはく君もです。私たちが気付きもしないトラップを知らない間に解除してますし。そもそも迷路型のダンジョンで、一回も迷わずに進めるってだけで異常です」

「フェ~!」


 ぬいを見ていると、多数を相手取る状況において、多数を圧倒できる何かを持っている事が、攻略スピードを上げるのにどれだけ大切か分かる。

 こはくを見ていると、ことダンジョン攻略に関して言えば、ダンジョンの難易度が上がれば上がるほど、戦闘力以外の部分が重要になってくる事がよく分かる。

 

「この場にまっくよがいたら、もうここ攻略出来てたんじゃない?」

「そ、それは流石に…否定できません」

「ベアー!」

「フェ~!」

「そうだね。私たちも頑張ろー!」

「ぉ、おー!」


 眠らせの権化まっくよがいる場合を考え冷や汗をかく沙羅たちは、奮起するのであった。


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