第235話 当たり判定が大きい

 蒼唯たちが合宿用の料理を造っている頃、そしてぬいたちが『地底の遺跡』に到着し、たった今から攻略を始めようとしている頃、神々が住まう場所である『神域』で、1柱の神が世界を覗き見していた。


[サキュバスが別行動なのは残念だが、サキュバスがいないことにより齋藤蒼唯の独創性が遺憾なく発揮されて…]


 元の世界で勇者に捨てられ、こちらの世界でも勇者候補蒼唯に相手にされない『聖神』エルエルではあったが、神々は権能によって信者の視点を覗き見る事が可能なため、その権能を有効活用した結果、蒼唯鑑賞という趣味を満喫していた。 


[なぬ!齋藤蒼唯の『超絶スーパー縫包もふもふ化』? 製作過程を見逃してしまっている! これは『世界の記録アーカイブ』を見返すしか…]


 そんな趣味満喫中のエルエルの元に、別の神が近づいてくる。


[嘲笑。『世界の記録アーカイブ』は軽々に使えない]

[……ミミル。お前だって信者の犬っころを見返してる癖に]

[訂正、こはく、信者でなく友人。それに『世界の記録アーカイブ』、僕の、権能。使う権利、ある]


 『聖神』エルエルと『賢神』ミミルは、本神たちが聞いたら絶対に否定するだろうが、仲良さそうに会話をし出す。


[そうだった。流石は『賢神』。世界が変化しても力は堕ちてないんだ]

[知識は、何処にでも、存在する。君は、相変わらず、無茶苦茶だね]

[何の事?]


 ミミルがエルエルを見て無茶苦茶だと言ったのには理由がある。エルエルやミミル以外にも異世界の神々は此方の世界に召喚されていた。

 しかし召喚された神々の多くは本来の力どころか、存在を維持する程度の力も無いような状態であった。

 その原因は何を力の源泉としていたるかにある。一般的な神々は、信者の信仰を力の源泉としている。そのため世界が変わり信者も知名度も無くなった現状では何もできなくなってしまう。


 それに比べてミミルはこちらの世界に来た当初から前の世界と同等か、それ以上の力を使えた理由は、ミミルの力の源泉は知識であり、世界が変化したとして、知識が無くなる事はあり得ないためである。

 

[信者、知名度、ないのに、ダンジョンを3つも、おかしい]

[信者? 沢山いるけど?]

[それは君の信者でない。蒼き錬金術師の信者。なのに、力を得られてる]


 そんなミミルと異なり、エルエルの力の源泉は一般的な神々と同様、信者からの信仰である。

 少し異なる点と言えば『勇者』という言うならばエルエルの化身とも呼べる存在を造り、その『勇者』への信仰も力の源泉とすることができる点である。


 それだけであれば程度の差こそあれ他の神々も行っている。しかしエルエルが無茶苦茶な点は、蒼唯はエルエルからの『勇者』を弾いている。つまり蒼唯はエルエルの『勇者』ではない。

 それなのに、現実では蒼唯や蒼唯が製作した『ぬいぐるみ』などの信者からの信仰が実際に力の源泉となり得ている。


[流石は、勘違い神、と、呼ばれし者。前も、そうだった]

[勘違いじゃないもん! あの人も齋藤蒼唯も私の『勇者』だもん!]

[『勇者』だもん、で信仰、得られる神、君だけ]


 思い込みの激しさによって、本来様々な柵によって選定する筈である『勇者』を、ちょっと優しくしてくれただけで、小さな村の少年に渡してしまうような神である。

 しかもそんな重責を押し付けておいて、『勇者』が心から自分を慕っていると勘違いした結果、歴代最高の『勇者』への信仰を得てますます力を伸ばした。


 そんな勘違い神と揶揄されている彼女は、他の神々から蒼唯が『勇者』を拒んだ件も、照れてるだけとか思ってそうと陰口を叩かれていることを知らないのであった。

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