第234話 デフォルメした蒼唯

 『地底の遺跡』に程近い貸別荘に到着した一行。ホテルや旅館等の宿泊施設も近くにあるのだが、折角最高峰の料理人がいるので、自炊可能な貸別荘をえらんだのであった。


 ただ、到着したのは良かったのだが、旅行慣れしていない上に、一行の中で一番体力が無い蒼唯は既にくたくたな様子であった。

 蒼唯は、エナドリ代わりに『霊薬エリクサー』をがぶ飲みする少女なため、疲れを感じたら常備している各種ポーションを飲むようにしている。しかし残念ながら蒼唯が造ったポーションといっても万能ではない。


「はぁー、『霊薬エリクサー』って肉体的疲労は取れるですけど、精神的疲労には効果が薄いんです師匠」

「そうね…でも、ちょっと車に揺られたくらいで疲れてちゃ大変よ。少しくらい体力つけないと」


 肉体的な疲労感は無くなったが、慣れないことをしているためか、普通に精神疲労を感じている蒼唯に、師匠らしい言葉を掛ける優梨花。

 

「師匠が良く言う、健全なる精神は健全なる身体に宿るってやつですね! あっ、そうです。健全な肉体になれば精神疲労もどっかいくですね」

「なればってそう簡単にいくの?」

「師匠、その心配はいらないです。私は既に健全な肉体を手にしてるですよ」

「あら? そうなの?」

「見てくださいです! じゃじゃーん『縫包もふもふ化』です」

 

 そんな優梨花に対して蒼唯は、『ブルーアルケミスト』休業中に製作したデフォルメ化した蒼唯ぬいぐるみの身体を披露するのであった。


「あら、可愛いわよ蒼唯。」

「ありがとうです! 師匠にそう言って貰えると嬉しいです」

「凄い! 蒼唯さんの新作ですね!」

「蒼唯さまモデルのぬいぐるみ、とっても可愛いです!」

「沙羅と七海もありがとうです。でもこれで終わりじゃねーですよ。この上には『超絶スーパー縫包もふもふ化』もあってです」

「「おお!」」


 突然『ぬいぐるみ』に変身した蒼唯を見た感想が可愛いなのが、蒼唯をよく理解していると感じられる。蒼唯も、健全な肉体に変身したからか、精神疲労も忘れ可愛いモノ談義に花を咲かせる。


 一方、女性陣の輪の外にいた秀樹は独り首を傾げる。


「健全かな?」

「わん!」

「そうか…」


 健全な肉体なのかは兎も角、性能面でずば抜けている事は秀樹にも理解できるので、取り敢えず納得しておくことにした。


 そんなこんなで、宿泊施設で一息ついた一行は、今回の目的であるダンジョン『地底の遺跡』へと出発していった。

 ダンジョンには潜らない居残り組として、蒼唯とまっくよ、そして優梨花は貸別荘に残り、『ぬいぐるみ』以外の面子のご飯の下準備等を始める。


「でも、折角の『食トレ』合宿なのに、まっくよも一緒に行かなくて良かったのかしら?」

「まく~? まくまく!」

「まあ、今回はダンジョンで食べるというよりも素材をここまで運んで、師匠に調理して貰う予定ですし、さほど支障はねーです」

「まく~」

「それもそうね」

 

 優梨花が傍にいるので心配はいらないとは思うが、それでもリリスもいないので、どちらか1匹は蒼唯の傍にいるべきだとの考えでまっくよは、居残り組となった。


「そう言えば、前に何かの記事に、料理は水が大切みたいなの載ってたですよね?」

「そうよ。あ、でも『霊薬エリクサー』とかを水代わりにするのは駄目よ。前にそれやって秀樹さんに、踊り食いならいいけど、これは踊りすぎてない? って苦言を呈されたことあるのよ」

「そうです? なら…」

「まく!」

「そうね。人数もいるしあまり考えすぎてると時間が足りなくなっちゃうわね」

「確かにです。ありがとうですまっくよ」

「まく~」


 ダンジョンへ行くためにこはくが必須なため、必然的に秀樹も行かなくてはならない関係上、ストッパーの役割を担えそうな者がまっくよのみであると秀樹が考えたというのもある。

 まっくよは、睡眠が関わらなければという条件付きではあるが、信頼を得ているのであった。

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る