第231話 諦念
『食トレ』合宿の許可はリリスから出た。とは言え、開催は春休みが始まってからのためもう少し先となるが。
「うーんです。オッケーされるのは嬉しいですけど何だかあっさりすぎる気がしないです?」
「ぬいぬ?」
「まくまく!」
「最近です? 別に心労を与えるような事は無いと思うですよ。まあ忙しそうなのは忙しそうですけど。それも『もふもふ
「ぬいぬい!」
「……まく~」
ただ、普段ならあっさり許可など出してくれないリリスから、簡単に許可が下りた事が気になる様子の蒼唯。
好きの反対は無関心と言うが、普段から頼りっぱなしで心労も掛けっぱなしな蒼唯たちは、リリスに愛想でも尽かされたのではと急に不安になるのであった。
とは言え、心当たりがない。蒼唯視点では本当に無いので困ってしまう。
こう言う場面での蒼唯の長所は、普通なら尋ねにくい本人へ直接質問ができる所である。相手次第では圧倒的短所となり得るがリリス相手なら問題は無い。
「と言うことで呼び出したです」
【そ、そうですか】
まさかそんなことで召喚されるとは夢にも思っていなかったリリスは、少し困惑気味である。
【私たちとの世界との融合と言いますか、所謂『異世界化』が進む現状、ぬい様やまっくよ様だけが爆発的に進化するだけでは……何とかしてしまう予感しかありませんが、物理的に手が足りないという事も起こり得ますので『食トレ』合宿も良いなと思い直した次第であります】
「本当です? 何かピンっとこないです。本音を隠してるみたいです」
「ぬい!」
【そんなことはありません】
建前を見破られ少し語気強めに誤魔化そうとするリリス。
元々リリスは、『聖神』エルエルの関心を他所に向けようとしていた。そのため『ブルーアルケミスト』の休業やらぬい、まっくよの『天空の城』攻略の自粛やら方策を考えたが、どれも上手く運ばなかった。
その結果を受け、リリスは蒼唯が神々から関心を受けるのは当たり前の事であり、それを防ごうとするのが烏滸がましいと思い直した。
リリスが蒼唯のブレーキ役を買って出たのは、ダンジョンマスターとしてダンジョンが駆逐されるのを防ぐためであった。
しかし蒼唯を慕い自らの意思で従い出してからは、蒼唯たちが住むこの世界が、蒼唯のうっかりによって無茶苦茶にならないためにブレーキ役をしていた。
「そうです? つまりは『異世界化』が悪いって話です?」
「まく~?」
【一概にそうという訳では…いえ、はい。そうですね】
そう、つまりリリスは、蒼唯のためにブレーキ役をしていたのである。それならば蒼唯がやりたいことをさせないのは本末転倒なのではと思ったのである。
言ってしまえば諦めムードに突入したとも言える。
ただ、リリスは失念していることがある。
リリスが何かを抱えている事を蒼唯は敏感に感じていること。絶大なる力を振るうときは大抵、身内のためにと言うこと。そして、大抵、そういう時に限って世界を平気で滅茶苦茶にする案をパッと実行しようとする事である。
「……つまり『異世界化』を止めればです?」
【止める? い、いえあの!】
「…この星自体に『異世界化』するためのスキルっぽい何かが宿ってると仮定するとです、流石に規模がデカすぎるですけど、各地のダンジョン核を増幅器代わりに利用して……」
【あ、嘘でした! 『異世界化』はどちらかと言えば進んでいただく方が故郷が増える感じがしてうれしいと思っております!】
「あれ? そうですか。やっぱりです」
蒼唯が物騒すぎる一人言を呟き始めたので、綺麗な手の平くるりを見せるリリスに、特に疑問を抱く事もない蒼唯。
【申し訳ありません。『賢インコ』のメティスから、こはく様が『地底の遺跡』を発見した事を聞いていたので少し自暴自棄に陥っていまして】
「自暴? よく分からないですけど大丈夫です?」
【はい、お陰で目が覚めました。諦めたらそこで世界滅亡だと】
「物騒な名言ですね。リリスたちの世界、ヤバすぎです」
ヤバすぎなのは蒼唯の思考だと思うリリスだが、先ほど安易な発言により大変な事態に陥りそうであったことを反省し、押し黙るのであった。
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