第229話 試練の迷宮の残り

 リリスは悩んでいた。まっくよとぬいが『悪夢の国』に来たその日から悩んでいない日など無かったかもしれないが。

 何に悩んでいるかと言えば、聞くだけで恐ろしくなる『食トレ』合宿についてと、その合宿が開催される原因となった『天空の城』を初めとする『試練の迷宮』についてであった。


 『天空の城』に続いて『知識の泉』まで出現したこの世界では、次いつ神々のダンジョンが出現してもおかしくない。

 というより、『天空の城』を初めとする『試練の迷宮』シリーズは、『勇者』の仲間を選定するというコンセプト的にも、既に出現していると考えた方が自然である。

 蒼唯とついでにリリス自身も『勇者』候補から外れるには、仲間についても、蒼唯に関係の無い者が選定されるのが好ましい。既にボス部屋前まで攻略が進んでいる『天空の城』は置いておいて、他の『試練の迷宮』は別の探索者たちに攻略して欲しいと考えるリリスであった。


【『地底の遺跡』と『海中の神殿』は発見難易度がそもそも高すぎるのよね。下手に合宿するってタイミングで見つかっちゃうと、神々のダンジョンで『食トレ』っていう最悪な展開もあり得る。となると発見されないまま早めに合宿を終わってもらうのも…】


 一応『食トレ』合宿には反対しているリリスであるが、ベアーくんたちが発起者で、蒼唯やぬいたちが賛同しているため、開催の流れを立ち切るのは難しい。

 それならば目標を下方修正するのもありかもしれないとリリスが考えていると、横から余計な返答が返ってくる。


「スデニ『試練の迷宮』シュツゲンチュウ!」

【メティス、私の思考を読んで質問に答えるのは止めてって前に言ったわよね?】


 その声を聞いたリリスはため息を吐きながら返答の主を見る。メティスと呼ばれたソレは、少し前から日本探索者協会のリリス専用の部屋に飼われているインコ、『賢インコ』であった。


「デモ、アタマデシツモン、シテタヨ?」

【だとしてもよ。時には知りたいけど知らない方が良い事もあるの】

「ムズカシイヨ、リリス!」

【そうね。世の中は難しい事ばかりなの】

「ドコニアルカモ、シリタクナイノ?」

【……『試練の迷宮』も貴方の知識量には敵わないのね】


 辿り着く事が第一の試練である『天空の城』とは違い、元の世界でも、他の『試練の迷宮』は見つけ出す事が第一の試練と言われていた。

 しかし蒼唯作の『賢インコ』の知識を駆使すれば、第一の試練など無いも同じなのだと痛感するリリス。

 

 誰かに攻略させるにしても、秘匿しておくにしても、場所を知っていた方が何かと都合が良いと考えたリリスは、メティスに未発見の『試練の迷宮』の場所について尋ねようとした。しかし少し遅かった。


【じゃあメティス、『地底の遺跡』は――】

「アッ! ハッケンサレタヨ! チョウドイマ」

【今!?】

「シンジツヲ、トキアカス、ソンザイニヨッテ」

【うん? 真実を解き明かす?】

「ソノソンザイ、トイノプードル、デアル」

【メティス。分かっててからかってるわよね。真実を解き明かすトイプードルなんて、この世界に2匹といないわよね】

「ソノカラダ、コハクイロニ――」

【もういいわよ!】


 蒼唯からプレゼントされたときから分かっていた事だが、やはり振り回されっぱなしなリリスなのであった。



 



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