第223話 記憶の片隅に

 『もふもふ楽園パラダイス』の話を聞いて色々と思い出したことがあった蒼唯は、帰宅後リリスに尋ねてみることにした。


「何か海外で『もふもふ楽園パラダイス』ってのが造られているって話を聞いたです」

【あ、蒼唯様も知ってしまわれましたか。まだどういう施設なのかも調査中であったのですが】


 するとリリスも既に『もふもふ楽園パラダイス』について、調査を進めている様であった。


 蒼唯は輝夜から聞いた事、そして前にリリスに回収された『絶対造るですノート』にその『もふもふ楽園パラダイス』の記載があった記憶があること等を説明する。


【その通りです。ですがあのノートは厳重に仕舞ってありますので、情報の流出はあり得ません。もしかしたら、昔の蒼唯様の知り合いがこの件に関わっているのでとも考えたのですが】

「そうなんです?」

【心当たりはないのですね】


 『絶対造るですノート』もいつ書いていたか覚えていない程の蒼唯に心当たりなどない。

 リリスとしてもそれは織り込み済みでの質問だったので特に気にせず、調査結果の報告に戻る。


【私が調べた限りでは、本当に箱だけ造っているという印象です】

「どういう意味です?」

【『もふもふ楽園パラダイス』という名前ですが、もふもふ要素がまったく見当たりません。単なるレジャー施設を造っているだけなのです】

「もふもふ要素が無いです? 『もふもふ楽園パラダイス』なのにです?」

【はい】


 向こうサイドが今、『もふもふ楽園パラダイス』を建設しているのは十中八九蒼唯を招き入れるためであろう。

 そのために、恥も外聞も捨てて、ネーミングセンスも蒼唯に合わせ、急ピッチで建設しているのだと考えていたリリス。そしてそう思っていたからこそ、彼女は安心していた。

 蒼唯は可愛いモノ好きではあるが、可愛いモノを造る方が好きなので、わざわざ『もふもふ楽園パラダイス』なんて誰が造ったかも分からない用な施設目当てに、海外なんて行かないだろうと思っていたからである。

 

 しかし、もふもふ要素が一切無い、ハリボテを造っていると聞いた。しかもさほどその情報を隠そうともしていない。

 覚悟を決めて蒼唯に媚びている者たちが、中途半端なモノを造るとは思わないリリスは、逆に不安になるのであった。


 リリスの調査結果を聞いた蒼唯は、少し考え込む。『もふもふ楽園パラダイス』という単語と箱だけ造るという手法が蒼唯の記憶を刺激する。その結果、昔どこかで聞いたことのある言葉を頭の中に浮かぶ。


「皆の可愛いが集まる場所になるといいね…」

【はい? 蒼唯様、今なんと】


 その呟きは小さく、リリスには内容まで聞き取れなかった。そのため聞き返そうとしたが、蒼唯は誤魔化してしまう。

 

「何でもねーです。それより、ちょっとその『もふもふ楽園パラダイス』が気になってきたですけど、完成したら行くことは可能です?」

【え、は、はい。おそらく向こうから招待の連絡があると思われますし、無かったとしても協会を通じて連絡を取ることは出来るかと】

「なら、お願いです。私は造りたいモノができたですからちょっと部屋に籠るです」

【あ、蒼唯様!?】


 そう言うと蒼唯は製作部屋に入っていってしまう。その姿を見て、いつも通りめちゃくちゃ不安に駆り立てられたリリスは、『もふもふ楽園パラダイス』の発案者を中心に、徹底的に調べ上げる事に決めるのであった。

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