第222話 もふもふ楽園

 蒼唯がその話を聞いたのは学校で輝夜と共にお昼ごはんを食べている時であった。


「もふもふ楽園パラダイスです? 新しいダンジョンか何かです?」

「まく~?」

「違うよ。何でもアメリカで計画されている大規模なレジャー施設なんだって。何か向こうのスッゴい権力者たちが集まって、人員を投入しまくってるらしいって話」


 何でも、もふもふ楽園パラダイスは、建築系のスキルを持つ探索者たちを大量導入することにより、物凄いペースで建設が進んでいるらしい。

 普通の者よりも重労働にも耐えられる下地があり、スキルによって様々な作業の効率化が可能な探索者を兼業している労働者は現場でも重宝される。

 しかしそれらを大量導入するとなれば、普通に作業員を派遣するよりも莫大な人件費が掛かるため、本当に緊急で建設したい場合にのみ取られる手法である。


 そんな大掛かりな手法で建てられるモノが『もふもふ楽園パラダイス』というレジャー施設となれば、周囲から総ツッコミであろう。

 それだけに留まらず、まだ建設途中なのにも関わらず、それ関連の広告や宣伝が既になされていた。しかも日本を中心に。


「何と言うかやり口が露骨すぎるよね。建てられるアメリカだとほとんど宣伝されてないって話だし」

「ふーんです? それでそのもふもふ楽園パラダイスはどんな感じでもふもふなんです?」

「まくまく!」

「うーん、それが謎なんだよね。建設途中の映像とか見ても、あんまりもふもふしてる感無いし」

「そうなんです? 名前負けです?」

「まく~」


 蒼唯をアメリカに来させるためだけの箱モノだとほぼ全ての者が分かっていても、蒼唯がそれに興味を持てば良いと言う点では、『もふもふ楽園パラダイス』は的を得ている。

 ただ、肝心のモノが悪ければ出不精の蒼唯が態々、アメリカまで足を運ぶことはない。


 そもそもの話、蒼唯は可愛いモノを自分の手で造り出す事が好きなのであって、可愛いモノなら盲目的にと言うのとはタイプが異なる。

 そのため、輝夜は権力者たちによる蒼唯誘致の一大プロジェクトは失敗に終わる気がしていた。

 

 当の蒼唯は、『もふもふ楽園パラダイス』という名前が気になっていた。


「良い名前ではあるですよね……でも、もふもふ楽園パラダイスです。輝夜、何か聞いたことねーです?」

「えぇ? うーん、そうだなぁ。……何と言うか蒼唯っぽいネーミングセンスだなーとは思うよ。昔蒼唯も、あれ? 小学生か中学生のとき、蒼唯が言ってなかったかな? 私が絶対、もふもふ楽園パラダイスを造るですみたいなこと」

「それです、それ。今手元に無いですけど、『絶対造るですノート』に書いてた気がするです」

「あーあったね。蒼唯のアイデア詰め合わせノート。最近書いてなかったけど。ってことは…どう言うこと?」


 前にリリスが中を見て、危なすぎるからと言い回収してしまった蒼唯作の『絶対造るですノート』。その中に『もふもふ楽園パラダイス』と書いてあった気がする2人。

 しかし何故それがアメリカが建設され出したのかについて分かるものはこの場にはいないのであった。

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