第220話 裏目、裏目
最近、リリスが何やら心労を重ねていることに蒼唯は気が付いていた。
そもそも多忙であることに加え、同時多発的に発生したダンジョン災害や『聖神』エルエル関連、それに、今回出現した『知識の泉』とその管理者『賢神』ミミル関連。
「まあ、これだけ重なれば疲れもするですよね。逆に疲れるくらいで済んでるリリスが凄いですね」
「まく~?」
ただリリス本人に聞けばそんなモノは大したことは無いと言うだろう。それくらい彼女にとっての心労の種は、蒼唯たちのやらかしが中心であるのだった。
そういったリリスの悩みの根本には気が付いていない蒼唯ではあるが、彼女を心配する気持ちは本物である。
特にリリスの夢に『聖神』エルエルが出てきた後、畳み掛けるように『知識の泉』について尋ねたあの日以降、リリスはとても忙しそうに何やら取り組んでいる様子であった。
「なんか質問がぁとかウンウン唸ってたですよね」
「ぬいぬい?」
「ほら、この前こはくが『知識の泉』をクリアしたって事で坪さんと師匠が色々とお土産持ってきてくれたじゃないです?」
「まくまく」
「それ関連なんだとしたらです。ちょっとやってみるです!」
リリスがいれば、嫌な予感を感じとり、止めてくださいと言っていただろう。しかしここにはそう言って止める者もいない。
また、リリスの悩みを解決したければ、蒼唯たちが何もしないのが一番だよとマジレスしてくれる者もいない。
そのため蒼唯はアクセルを踏ん抜いてしまうのであった。
――――――――――――――――――
蒼唯は、時間を忘れて製作に夢中になっていたため、リリスが帰宅し夕食を作ってくれていた事にまったく気が付いていなかった。
【蒼唯様? 夕食のご時間ですので作業を中断して降りてきて貰えますでしょうか?】
「…………あ、わかったです。ちょうど造り終えた所ですから降ります。というかいつの間に帰って来てたです?」
【少し前でしょうか?】
「全然気が付かなかったです」
【ぬい様とまっくよ様から蒼唯様は集中しているからと言われましたので、静かにしておりました。それにしてもそれほどまでに集中するとは何を造ってらっしゃったのですか?】
蒼唯がそこまで集中しているのであれば可愛いモノだろうと当たりをつけながら尋ねるリリスだが、その質問をされた瞬間、蒼唯の顔が綻んだのを見て、途轍もなく嫌な予感がしてしまう。
その予感はかなり正確ではあった。
「最近、リリスが悩んでいるように思えたです」
【悩み、とまでは言いませんが…】
「それで思い出したです。『知識の泉』の話をした後でです、質問がぁとか言ってたのをです」
【な、なるほど、言ってましたでしょうか?】
リリスはギクッとする。『知識の泉』関連の作戦を練った際の一人言を聞かれていたらしい。
とは言え蒼唯は、作戦の確信部分は聞いていない様子なため、少しほっとする。
「だから造ったです」
【す、すいません。少し話を聞き逃したようなので、もう一度お聞きしてもよろしいでしょうか?】
「うん? えーと、質問がって言ってたから造ったです」
【は、はい】
明らかに前の文脈から判断して、何文か聞き逃したと思ったリリスだが、特に何も聞き逃してはいないようだ。
となると余計に怖くなる。人が質問と呟いて造るものをリリスは想像できない。こういった、リリスが想像できない場合は、大抵ヤバいモノが飛び出てくるのがいつものパターンなのである。
「じゃじゃーんです。これは『
【……え?】
「流石に噂に聞く『賢神』よりは劣るかもですけど、坪さんと師匠が持ってきてくれたお土産をフル活用したですから、それなりの出来だと自負してるです。賢そうな見た目が可愛いですよね?」
【えーと、あのー、その。はい】
『賢神』と蒼唯たちを引き合わせないため、陰で色々とやった結果、蒼唯の心配を誘い、劣化版とはいえ『賢神』に近しい権能を持つインコを造られたというのだ。
最早リリスには、弱々しく肯定するくらいしかやれることは無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます