第219話 リリスの計画

 坪夫婦との通話を終えたリリスは、近くにいた下僕の1人に指示を出す。


【これまで以上に日本政府及び諸外国からの圧力は強まることでしょう。しつこい輩はこれまで通りここに連れてきなさい】

「承知しました」


 最近の夢に現れた『聖神』エルエルを追い出した一件から目に見えて力が増幅したリリス。

 これまでは時間を掛けて丁寧に魅了化した下僕を除いては、単純な命令に従わせるくらいしか出来なかったが、力が増した今、複雑で抽象的な指示でも完璧にこなす下僕が増えた。

 そのためリリスがこなす仕事量も多少は軽減されていた。

 時間的に余裕ができたリリスは、下僕たちが全員退室したのを確認し、一人言を呟く。


【それにしても、こはく様が『賢神』ミミルと友好を結ばれたのが一番の誤算だったわね。まあ第一目標は達成したのだし、あまり欲張りすぎるのもダメね】


 リリスの予想では、秀樹の質問に関する回答はもう少し蒼唯成分少なめになる筈であった。

 しかし、『賢神』がこはくを気に入り、かなり丁寧に回答してくれたので、結果的に蒼唯成分増し増しな回答となってしまった。とはいえ、『不老不死』にしても『死者蘇生』にしても出来る可能性が示唆されたのであれば、世界一と目される蒼唯には当然声が掛かる想定であったので、状況が深刻化したという訳ではないのが幸いではある。


【蒼唯様の質問を引っ提げたぬい様方が攻略してしまうって最悪の事態は避けられたのだし…もし今後、こはく様を介してぬい様方が頻繁に『賢神』と会うとなると困るけれど】


 


 『不老不死』や『死者蘇生』と言うのは、技術的には凄まじいものである。しかし実際にそれ自体が有用かと言うと難しいだろう。

 『不老』は兎も角『不死』を望む者は少ないだろう。死ねないと言うのもある種の呪いだと皆理解しているからだ。

 逆に『死者蘇生』は多くの者が欲するだろう。しかし蒼唯の話であれば、『死者蘇生』は死んでしまってから間もなくの、魂が崩壊する前でなければ無理であるとの事なので、『死者蘇生』を欲する者たちのニーズには合わないだろう。


 蒼唯から、事前に『不老不死』や『死者蘇生』の話を聞いていた結果、これならば世間に発信しても大丈夫だろうとリリスが判断し、権力者の下僕を使い他の権力者たちを説得したのだ。

 探索者がもし『賢神』に質問するとなればダンジョン関連の何か、もしくはアイテムや装備品関係だろう。アイテムや装備品となれば蒼唯であるし、ダンジョン関連など、リリスやサタン等のダンジョンマスターと深く関わっている蒼唯の話が出ない方がおかしいと言える。


【それこそダンジョンの真相とか質問されて、蒼唯様の事が語られた方が不味いものね。まあ結果的には、こはく様と『賢神』が友好関係を築いたのは良かったかもしれないわ。流石のぬい様方もこはく様の友人を茸まみれにしたり、パクパクしたりはしない筈だもの…きっと】


 まあ、色々と誤算はあったし今後の働き次第であるが、リリスの計画は概ね成功と言える結果を得た。

 後は『賢神』ミミルとぬい、まっくよの関係が友達の友達的な微妙な位置に落ち着いてくれれば、ぬいたちから積極的に『賢神』に質問することも無いだろうが、それはきっと叶わないのである。

 



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る