第217話 もふもふとした計画

 秀樹たちの生配信を見ていたリリスは、突然配信が終了した様子から、秀樹のピンチを察した。そのため、本来の予定とは異なり秀樹ではなく、優梨花にメッセージを送信した。

 しかし少し待っても既読にすらならないため、リリスはメッセージではなく通話を試みてみた。何コールか待つとようやく繋がる。


「リリスさん? 今…少し忙しくしてて。ごめんなさ――」

【何で忙しいかは大体予想がつきますが、一度秀樹様に変わって、いえ、ビデオ通話にしていただけませんでしょうか?】

「……なるほど。私だけ、蚊帳の外だったという訳ね。分かりました。はい、秀樹さん。リリスさんから電話。しっかり説明してくださいね!」


 優梨花はリリスからの電話は当然、抗議の電話だと思った。蒼唯が世間から注目されて一番苦労するのはリリスであるためだ。

 そのため先ほどまで秀樹を圧倒していた覇気を霧散させ、リリスの電話に出たのだ。

 しかし、リリスの声からは、怒りも、動揺さえも感じ取れなかった。怒りは兎も角生配信直後に動揺すらしていないということは、今回の撮影についてはリリスも知っていたということである。


 リリスが事前に知っており、全世界に蒼唯が『不老不死』や『死者蘇生』を可能とする唯一の存在だと配信した事に動揺していないのであれば、何かしらの思惑があるのだろう。

 その説明を優梨花は求めた。


【お疲れ様です秀樹様】

「お疲れ様、まあ、どちらかと言えば終わったあとの方が…まあそれはそれとして、回答が思ったよりも蒼唯色強くなっちゃったけど良かったかな?」

【当初の予定より蒼唯様への注目度は高まってしまいますが、大した問題ではありません】

「なら良かった。流石に『蒼き錬金術師』ってワードが出た瞬間は焦っちゃったからね」


 優梨花には世紀の大失敗に見えたあの配信を、秀樹とリリスは成功だと言う。


「……話を聞く限り、元々、『不老不死』や『死者蘇生』と蒼唯の関係性を仄めかすつもりだったのかしら。なぜ?」

【端的に申し上げれば、『仲良い人たち皆、もふもふになっちゃえ計画』を阻止するためですね】

「なるほど、仲良い人た――はあ?」


 真面目な雰囲気にそぐわない事を言い出すリリス。そんなリリスに優梨花は思わず聞き返してしまう。

 しかしリリスは真剣な表情を崩していない。


【蒼唯様の考える『不老不死』イコール『もふもふ化』の進化版というイメージなのですが】

「それはそうね」

「受け入れるの早いね。僕はそこ、すんなり受け入れられなかったよ」

「秀樹さん?」

「うん、ちょっと黙っているよ」


 本来ならツッコミ所しかないリリスの台詞も、蒼唯理解度が群を抜いている優梨花にはすんなり受け入れられるのであった。


【とは言え、特に切っ掛けが無ければ蒼唯様は他人をもふもふにしようとはしません】

「そうね」

【ですが、蒼唯様が『不老不死』に似たモノを造れると話題になれば、『転職の神殿』の際の無職騒動と同様に、ソレを仲の良い者たちに配る可能性があります】

「それが切っ掛けになって、蒼唯が仲良しの人たちをもふもふ化させちゃうかもって事? それが今の現状じゃ無いかしら? むしろ配信した分より拡散されちゃっているし、事態は悪化してると思うのだけれど?」


 リリスの説明を聞いた優梨花の率直な感想は、リリスが恐れている事態にまんまとなっているのではということであった。

 しかし今の蒼唯は普通の状態では無い。


【蒼唯様は現在、販売活動等を休止しておられます。そして蒼唯様に理解のある皆様はそれに配慮して注文等を控えていらっしゃいます】

「確かにそうね」

【ですので、今であれば、蒼唯様に『不老不死』を求めて群がるのは、蒼唯様と近しく無い、つまり蒼唯様がソレを配る可能性の低い者たちの筈です。その者たちを使って、蒼唯様に『不老不死』をねだる事をタブーにしたいと考えているのです】


 蒼唯は『不老不死』や『死者蘇生』は難しいと考えており、実際に蒼唯がリリスやぬいたちに施しているセーフティは完璧では無いだろう。

 しかし、蒼唯は天災である。何度も試行錯誤を繰り返せば、完璧に近い『不老不死』や『死者蘇生』技術を身に付けるかもしれない。


 そのためリリスは、世間の『不老不死』や『死者蘇生』への興味のピークを今に持っていきたかったのだ。


「それなら最初から私にも知らせる訳にはいかなかったのかしら?」

【蒼唯様は、「皆もふもふになったら可愛いかもです!」と仰っていましたので…】

「優梨花、蒼唯には好きなことを伸び伸びさせてあげたいって言ってたからね」

「私でも蒼唯に反対することくらいあるわよ」

【後は、今作戦は、蒼唯様へのリスクが増える類のモノの上、こはく様も利用する形のため…そういえば、こはく様の姿が見当たらないのですが】

「うん? こはくならそこに」


 秀樹が端末をこはくの方に向けると、主人たちが真剣な話を繰り広げている事など気にも留めず、ミミルの神像と楽しそうにお喋りするこはくの姿があった。


「わんわん! わふぅ」

「流石だな」


 そんな光景を目の当たりにしたリリスは驚くと同時に納得するのであった。


【な、なるほど。『賢神』の回答が親切過ぎると感じておりましたが、これほどまでに、こはく様が『賢神』に好まれておられるのであれば納得です】




 

 

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