第216話 質問権の譲渡
こはくのほっこり質問によって場が和み質問しやすい環境となったため、神の存在に圧倒され気味だった優梨花も気兼ね無く質問するのであった。
優梨花の質問は、まだ秀樹たちが現役の探索者であった頃に見つけた、とある『
殆どの食材は秀樹や柊率いる『商会連合』の協力もあり調達出来たのだが、幾つかの食材については、情報すらないような状況なので、良い機会だと考え質問することにしたのだ。
[『賢神』ミミルの名において答える。『黄金林檎』は蛇、いや茸の蛇、守る『エデンの園』に、『神聖水』は『聖神』を称える者たち、住まう……いや、情報、修正。茸に支配された都市『ミラグロ』―――]
「何だか茸要素強めね。流行なのかしら?」
「くぅん?」
ミミルから食材が入手できる場所を聞いた優梨花は、謎の茸推しに困惑し、こはくは、何だか前に聞いたことがあるような気がしないでもないため、どこで聞いたんだろうと考え込む。
そんな優梨花たちとミミルのやり取りの横で秀樹は、柊とメッセージのやり取りをしつつ機材のセッティングをしていた。何の機材かと言えば、『知識の泉』に来る前に柊から手渡されていたダンジョン配信用機材である。
秀樹:「柊くんに渡された撮影用ドローンは今、セッティング完了したよ」
柊:「はい確認できました。いつでも配信は始められるので、良いタイミングで合図ください」
秀樹:「はいよ」
秀樹はここに来る前に、柊、と言うより柊を介して探索者業界のお偉いさん方から質問権の譲渡を提案された。
提案(強制)に屈する程優しくない秀樹だが、蒼唯たちと深く関わっている関係上、ダンジョンの裏側まで知っており、質問権の重要度は低い。
更にお偉いさんは兎も角、質問権の独占とか言って他の探索者たちにもひんしゅくを買うの馬鹿馬鹿しかったため、その提案に乗ることにしたのだ。
ただ、お偉いさん方には言わなかったが、質問権が攻略パーティー、1人1人に与えられるモノではなく、パーティーで1つであった場合や、攻略貢献率が一番高くなる予定の、こはくが1つの質問で満足しなかった場合はサイレント反故にするつもりであった。
秀樹:「とは言え、誤魔化しをさせないために配信をやれなんて、あの方たちの発想にしては若いよね。柊くんが提案したの?」
柊:「……まあ、あの人らから発表するより、こういった形で発表した方が、見た人たちが、坪さんたちに恩を感じると思いますので」
秀樹:「マメな気遣い、流石だね」
そんなやり取りをしていると、優梨花の質問も終了したのか、今はミミルとこはくが楽しそうに会話をしている。
秀樹:「じゃあ始めようかな」
柊:「視聴者への説明とかはこっちでやっておくので、坪さんは気にせずお願いします!」
秀樹は柊に配信開始の合図を送り、そのままミミルの神像に近づいて行くのであった。
――――――――――――――――
突如として始まった配信。さらには既に攻略を終えた場面からのスタートという異例な配信であったが、柊の宣伝や、『知識の泉』の最奥からの配信という話題性からか、視聴者数は万を優に越え、さらに増え続けていた。
「わんわん?」
[そうか、なるほど]
:名探偵衣装のこはく可愛い!
:像と話してるんか…像と?
:まあ、ダンジョンだから
そんな事態になっているとは露知らず、秀樹は神像に話し掛ける。
「さてと、そろそろ質問しても良いかな?」
[うむ、質問を]
:あ、飼い主さんが質問するんか? てっきりこはくくんがするんかと
:流石に飼い主さんだろ! まあこはくくんがうっかりしちゃってもおもろいが
:てか質問って何になったん?
:えーと、不老不死か死者蘇生じゃなかった?
:あれ? ダンジョン災害とかそっち系じゃ?
視聴者は秀樹が何を質問するかわかっていなかった。
秀樹の質問は既に決められていた。ただ、優梨花の質問風景を見て、質問の内容はそれなりに融通が利くことが分かったため、それに応じて少し質問内容を変える秀樹。
「『不老不死』になるためにはどうすれば良い?若しくは『死者蘇生』とか良いけどさ」
「わふぅ?」
:そっちか!
:ダンジョン系の方が良いと思うけど、それはそれとして気になる!
:これ答えあるのか?
秀樹らしくない質問に首をかしげるこはく。そして先ほどまで即答していたミミルの反応が鈍い。流石に質問が難しい過ぎたかと不安になる秀樹。しかしミミルはすぐに口を開く。
[『賢神』ミミルの名において答える。神の技法、再現できる者おらず、不可能である]
「不可能…だが?」
:不可能!?
:マジか、そりゃそうか
:うん? だがって
[されど、求める者、茸と睡を乗り越え、蒼き錬金術師を探しなさい]
「なるほどなるほど。蒼き錬金術師を探せか…」
:蒼き!?
:錬金術師!!
:これは――
スパーンと何かが斬れた音が響く。あまりの衝撃発言に、呆然としてしまった秀樹は、その音で再起動する。
その音の方向を見れば、優梨花の足元に撮影用ドローンが真っ二つな状態で墜落していた。
「ごめんなさい秀樹さん。手が滑っちゃって」
「あ、ああ、そうか」
「それはそうと、秀樹さん。少しお話があります」
「あ、はい…」
神であるミミルよりも圧倒的な存在感を放つ妻の顔を秀樹はまともに見られないのであった。
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