第215話 拡張と質問
ペットのこはくが謎を解き、残りの謎は、妻の優梨花が全て捌いてしまった。
「はぁー、食べられない料理を作るのは趣味じゃないのよね…」
「くぅん」
「あ、別にこはくを責めてるわけじゃないのよ? ねぇ秀樹さん?」
「え、ああ、そうだね」
探索者協会では、ダンジョンは常識外れな出来事ばかり起こるため、常に警戒を怠ってはいけないと、新人探索者たちに教えているが、味方が常識外れな場合の対処法は教えてくれなかったなー、と現実逃避をしていた秀樹は、1テンポ遅れて反応する。
いつもなら即座にフォローを入れてくれる秀樹であるだけに、少し心配になる優梨花とこはく。
「秀樹さん?」
「くぅん?」
「ごめんごめん。少し考え事をしていただけだよ。スキルの拡張か…」
能力の拡張という概念が存在する、蒼唯や優梨花といった何故そのスキルでそんなことが出来るんだ勢まで能力を昇華させれる傑物はほぼ存在しないが、その一歩手前位であれば能力を拡張できたモノはいる。秀樹も一応そのうちの一人である。
能力の拡張とは例えば、普通の『料理人』が食材以外に調理スキルを使用した所で、スキルは当然ながら不発に終わる。
しかし食材かどうか曖昧なモノや食べられなくもないモノなどにスキルを使用すればどうなるか。使用者のイメージ力やスキルの練度など様々な要因により発動するかどうかは変わってくる。
そのようなある種の実験チックな検証を繰り返しスキルの練度を高めることにより、能力の範囲は拡張していくのだ。
「……とは言えだよな」
と言う概念があったとして、存在する物同士を合成する『錬金術』で魂やらジョブやらを出来るかもです、と特に検証もせず弄りだしたり、ダンジョン生物説を聞いたその日にダンジョンを捌こうとしたりするのは、普通の思考回路では出てこないだろう。
探索者において、固定観念や常識に囚われた者は大成しないと言われているが、その通りだと、優梨花や蒼唯を見ていると納得してしまう秀樹であった。
「まあ、それを支えるセンスと練度、並外れた集中力があってこそだろうけどね」
「……考え事は終わったかしら?」
「うん。ありがとう」
「じゃあ、先に進みましょう」
「わん!」
秀樹は、一度考え込むと長引く自分の考え事が一区切り着くまで待っていくれていた優梨花とこはくに礼を言い、先に進むのであった。
最後の謎ラッシュ以降は特に謎は出現しないまま、一行はダンジョン最奥に到着する。
そこには1つの像が置かれていた。その像から発せられる存在感は、その像が単なる置物では無いことを示していた。
「リリスさんの話が本当なら、これはこのダンジョンを創った神様の――」
[そのとおり、僕、ミミル。賢き者たち、よく来た]
神像からなのか、それともダンジョンからなのか、それさえも分からないが、声が聞こえてくる。静かだが不思議とよく聞こえてくる声であった。
その不思議な声に圧倒された秀樹と優梨花は、動けないでいた。そのため唯一いつも通りなこはくだけが、『賢神』ミミルと会話を始める。
「
[人々、ケンジン、呼んだ。別に、かしこしん、構わない]
「
お利口なこはくは、ここにピクニックに来る前、リリスたちが言っていた者の名前を朧気に覚えていた。
その名前を声の主が名乗ったため、聞いてみた所、正解したのであった。
[2人、戸惑ってる。先に、君、質問を]
「
[何でも、聞く]
「
ミミルは『知識の泉』最奥まで到達した報酬である質問権を、まずは、こはくに与える。
突然の事に戸惑いつつ少し考えたこはくは、とある質問をミミルにぶつけるのであった。
そして、その質問の回答を聞いたこはく、ついでに秀樹と優梨花の顔は見事にほころぶのであった。
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