第212話 毒された価値観

 蒼唯の中で『死者蘇生』と『不老不死』は、魂の保護や肉体の再現等、幾つかの条件が合えばそれに近しいことは可能かもしれない程度のモノであり、蒼唯の技術がどんなに向上したところで、完璧には絶対にならないと確信できるモノであった。


「まあ、だからです。柊さんにはどっちも難しそうですとは言っておいたです」

【まあ、それが良いかもしれませんね。下手に色々と言っても混乱を招くだけですので】

「ですね。まあこんな世間話はどうでも良いです。そんなことよりです」

【どうでも…はい、なんでしょうか蒼唯様】


 そのため、聞かれた段階でどちらもノーであると即答していた蒼唯にとっては、『知識の泉』も『不老不死』や『死者蘇生』もただの世間話程度の価値しか無いのであった。

 そんなことより蒼唯には目の前の事の方が重要であった。目の前のリリスの方が。


「なんかあったです?」

【な、何かとは何でしょうか?】

「寝る前に比べて魂のぶわーってした感じがよりぶわーってしてるです」

【ぶわーっと言われましても…寝てる間は――あ、】

「まくまく~」

「ぬいぬい!」


 魂を感じられる蒼唯から見たリリスは、眠りについく前と今とでは、明らかに違いがあった。

 蒼唯がぶわーっと表現したモノ、魂の格と言うか、存在感と言うべきモノが明らかに上がっている印象であった。日々の生活でも魂は変化するが、ここまでの変化は、蒼唯の記憶では、ぬいたちが初めてダンジョンをもぐもぐしたときくらいの変化であった。


 そして眠っている間に起こった事など、心当たりは1つしかない。

 リリスの夢に侵入してきた『聖神』エルエルをもふもふの餌食にした事である。


 恐る恐る夢の中で起こった出来事を説明するリリス。それを聞いた蒼唯は納得顔で頷く。


「神を倒して成長したって事ですか。納得です」

「ぬいぬい!」

【で、ですが、それなら蒼唯様たちも『聖神』の襲来を乗り越えていましたよね】

「あの時は、まっくよが夢空間を食べまくって脱出したです。私はそういうシステムにあまり詳しくねーですけど、撃退と逃亡だとやっぱり違うんじゃねーです?」

「まくまく~」

【それは、そうですね】


 寝不足の邪魔をされイラついたあまり、奥の手であった『縫包夜行もふもふしゅうらい』を使ってまで神を撃退してしまったリリス。

 エルエルが蒼唯に注目してしまうとか等の間接的な影響ばかり気にしていたが、そもそも消耗していたとは言え、神を打倒するという前の世界でも考えられない快挙による直接的な影響についてはすっかり失念していたリリス。

 モンスターどころか、ダンジョンマスターやダンジョンそのものを翻弄するだけぬいやまっくよ、神々にしか不可能な芸当を趣味の片手間にやってしまう蒼唯などと一緒にいる間に、神を追い返すくらい大したことでは無いという価値観が少なからず芽生えてしまっている辺り、リリスもすっかり毒されてしまっているのだろう。


「まあ、そんなに悪い感じの変化にも見えないですけど、一応詳しく調べてみるです? また変なの付けられてるかもしれんですし」

【……よろしくお願いします】


 エルエルは蒼唯にマーカーを付けてきた前科があるので、蒼唯の提案をリリスは承諾するのであった。

 



 

 

 

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