第210話 寝起きなのに

 『小常闇』から目覚めたリリスを待っていたのは、あからさまに不機嫌そうにリリスを見ているまっくよと、それを宥めているぬいであった。


まくまたまくまくあいつか!」

【は、はい。途中、『聖神』エルエルの介入がありました】

まくもう~!」

ぬいぬいまあまあ


 まっくよの怒っているたが、その怒りは『小常闇』に侵入してきたエルエルに向けられており、別にリリスに対しては何もないのであるが、まっくよの不機嫌な様子を見ると、『悪夢の国』を食い荒らされたときのトラウマが蘇るリリスには、寝起き早々見るには刺激が強かった。


 そんな寝起きの一幕により多少ストレスが加算されたものの、まっくよの『小常闇』により寝る前に比べれば幾分快調となったリリスは、寝不足のイライラにより何も考えずにやってしまった、エルエルに対しての行動について振り返っていた。

 

【結果的には撃退できましたし、結果的にはよか――いえ、そもそも『縫包もふもふ化』に『縫包夜行もふもふしゅうらい』まで見せてしまったら、益々蒼唯様への興味が…】


 『縫包夜行もふもふしゅうらい』は、リリスが夢空間かそれに類似するフィールドにいるときのみ発動できる制限付きのスキルである。

 その制限がある事により、スキルの性能は、初期のぬいやまっくよレベルの『ぬいぐるみ』をほぼ無制限に召喚するという、かなりのぶっ壊れたモノとなっていた。

 

 消耗していたとはいえ神でさへ、ぬいぐるみの波になす統べなく飲まれ消えていった所を見れば、このスキルの有用性は分かるだろう。

 しかしスキルがスキルなだけに、使い所は吟味しなければならなかった。普段のリリスなら分かっていたそれを、エルエルと対峙した際のリリスは、それを理解するほど考えることにリソースを割いていなかったのであった。


ぬいぬいどんまい

【それに、そもそも消耗していたとはいえ聖神相手に無策で攻勢にでてしまいました。反省です】

まくそう? まくまいいよ!」

ぬいぬいそうそう

【……お二方のように、神だろうと何だろうと、取り敢えず眠らせよう、取り敢えず生やしてみようで上手くいく方ばかりではありませんよ】

まくまくそうかな?」

ぬいぬいぬきにしない!」

【…結果的に、蒼唯様だけへの興味が私に分散したと考えれば、そこまで悪い結果ではなかったと考えることに致します】


 流石のまっくよたちも、『小常闇』を要求するリリスにいつもとは異なる様子を感じ取っていたのか、落ち込んでいくリリスを慰めるという、珍しい光景が見られた。


 そんな二匹の慰めもあり、いつもの様子を取り戻したリリスは、そういえば蒼唯が不在であることに気が付く。

 一瞬、ぬいぐるみ造りに夢中なのかと考えたが、作業部屋であるここにいないのであれば違うだろう。


【蒼唯様はどこにいらっしゃいますか? 聖神のことも含めてお話したいのですが……】

ぬいぬいよばれた

【…誰にでしょうか?】

まくさあ?」

【何だが嫌なよ――】

「戻ったです! あ、リリスも起きたですか、おはようです」


 嫌な予感がひしひしとする中、蒼唯が戻ってきた。


【おはようございます蒼唯様。呼び出されたとお聞きしましたが、何か問題でもありましたでしょうか?】

「うーんです。まあ私に直接関係する訳じゃないですけど、問題と言えばそうかもです」

【そ、そうですか。その問題と言うのは…】

「私もあまり理解できてねーてすけど…まあ、あれです。リリスは、『死者蘇生』と『不老不死』ってどっちが難しいと思うです?」

【はぁ? ……ちょっと寝起きの私には、その質問は濃すぎなように感じます】


 何の脈絡もなく発せられた蒼唯の質問を聞いたリリスは、自身の嫌な予感が的中したことを確信するのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る