第203話 まっくよ増殖計画

 蒼唯は可愛い至上主義である自分のポリシーが批判されており、その批判に共感する世間の人々が騒いでいるという事を、学校に登校した際クラスメートに教えられ初めて知ることになる。

 SNSをやらず、探索者コミュニティにも殆ど属していない蒼唯は、そういったネットによる炎上などに疎いのであった。


「なんか騒がれているって言う割には、皆優しい感じです?」

「まく~?」


 ただ、それを教えてくれたクラスメートも、他の生徒や教師も蒼唯に対して厳しい視線を向けてくるわけでは無く、どちらかと言えば蒼唯は、皆の優しい視線に囲まれていた。

 世間の声と実際の回りの反応の違いにギャップを感じ首をかしげている蒼唯に、輝夜は当然と言わんばかりに話し始める。


「それはそうでしょ。今回の批判は有益性、つまり実用的なアイテムをもっと造れってことでしょ? 毎日のように、まっくよのお昼寝タイムのお世話になっているこの学校の人たちが、そんなこと言えるわけないでしょ」

「なるほどです。まっくよのお陰だったですか」

「まくま~」


 この学校の生徒も教師も、まっくよには頭が上がらない。なにせ人生の3分の1とも言われる睡眠を司るのがまっくよである。

 仮に世間の声に共感していたとして、有益な云々の話をして、まっくよから提供される睡眠を取り上げられては困るのだ。


 ただ、蒼唯の日常的には良い事であるが、この一例を挙げて世論に対抗するということは難しい。


「…でもこの状況はあんまり良くないかもしれないね」

「良くないです?」

「私たちは、まっくよの恩恵に与れてるけど、他の人たちは違う、って現状を挙げてもっと、まっくよを量産しろだとか言ってきそうじゃない?」

「まっくよをです? …まっくよ増殖計画はリリ――ダメだって言う人がいたですから無理ですね」

「まくまく~!」

「なにその計画!」


 蒼唯の口から、想像するまでもなくトンでもないと分かる計画名が飛び出してきたため困惑する輝夜。


「前に『増殖』から『増殖猫』って、猫胞子から幼猫なまっくよがどんどん生えてくるスキルを造ろうとしたら、本気に怒られた事があったですよ。可愛いが増えるともっと可愛いです、って思ったですけど」

「それは怒られるでしょ。怒ってくれた人はナイス過ぎる」

「だから、量産しろとか言われても困るですね」

「まくま」


 まっくよ増殖計画を未然に防いだリリス。彼女ががいなければ、この世界が眠りに包まれていたかもしれない。


「うん、やっぱり蒼唯は実用性を追い求めちゃダメだよ。今もギリギリアウトな性能のアイテムが多いけど、ベクトルが可愛いに向いてるから許されてる感あるもん。ヤバい性能が実用性にのみ向けられたらと考えると恐ろしいもん」

「です? まあよく分からんです。けど私も実用性メインで行くつもりはさらさら無いです。私はこれからも可愛いモノ一筋です!」

「なら安心…なのかな?」


 技術の無駄遣い、性能の無駄遣いをして尚、副次的な効果で、一般的なアイテムの性能を凌駕してしまう蒼唯のアイテム。


 モチベーション等、様々な要因から同じ性能のモノを造れるとは限らないが、今でさえ、可愛くしたいという目的とそのための性能が合致してしまえばトンでもない事になっているのだ。

 蒼唯が可愛いという縛りを解けばどうなるかなど火を見るよりも明らかである。

 

「まく~、まくまく」


 そして蒼唯たちの一連の話を聞き終えたまっくよは、珍しく思案顔を浮かべるのであった。



 


 

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