第204話 最高傑作

 ぬいとまっくよは、今の現在、世間が抱いている認識に不満を持っていた。

 その認識とは、蒼唯が可愛いモノを造る事を止めれば、もっとより有用なアイテムを生み出せると言うことであった。

 ニュース等でコメンテーターが当たり前のようにそう主張する場面をまっくよたちは何度も見ている。蒼唯に直接は言わなくとも、輝夜たちクラスメートもそう思っている事は、反応から分かってしまう。

 逆にそう思っていないのは蒼唯自身くらいである。


まっくまやっぱりまくそう!」

ぬっいそっか!」


 世間がどう思っているかは知らないが、ぬいとまっくよは、自分たちこそが、蒼唯がこれまで製作してきたモノの中で最高傑作一番かわいいであるとの自負がある。

 しかし世間の認識をぬいたちは、蒼唯がまだ力を制限しているのだと考えられていると解釈した。

 それはイコール、皆して、ぬいたちは蒼唯の最高傑作NO.1かわいいでは無いと言っているように聞こえるのでだ。


ぬいじゃあぬいぬいどうする?」

まくまむずい

 

 そのため、現状が不満なぬいたちは、世間の認識をぶち壊してやろうと目論んでいた。


 ただ、ぬいたちがこれまでのように活躍するだけでは、その認識を改めてさせるのは不十分である。何故なら、これまでも常識外れな実績を積み上げてきたぬいたちに対して、世間の人々が

「今のぬいたちですら此なのだから、見た目に拘ら無ければもっと――」

 なんて言っているのだ。普通にやるだけでは効果は薄いだろう。


ぬーいうーん

まくまくまリリスかな?」

ぬいぬいリリスか!」


 いくら考えても良い答えは見つからなかったぬいたちの意見は、蒼唯家の圧倒的頭脳担当であるリリスに立案を丸投げすることで一致するのであった。



 こうして、ぬいとまっくよの『ぬいぐるみ会議』にお呼ばれされたリリス。一応、『ぬいぐるみ会議』なため、彼女も、今日はしっかりともふもふモードで連れてこられていた。


【なるほど。話は理解しました。はぁー、良かったです。誰にも相談せず突っ走ってしまわれないで】

ぬいぬいぬそんなこと

まくましない!」

【ご自身の胸に手を――いえ、分かっております】


 とある言葉を言いかけたリリスであったが、ギリギリの所で飲み込み、本題に入る。


【それで、世間的にぬい様方が侮られているように感じるとの事ですが、ぬい様やまっくよ様がご活躍されても事態は好転しないのは、こ想像の通りだと思います】

ぬいぬだよね

【どちらかと言えば、蒼唯様の行動次第な部分があります】

まくアオ~?」

【はい。要するに、蒼唯様にとって可愛いがどれだけ大切か、可愛いを造るという行為がどれ程、クオリティの向上に寄与しているかを世間に分からせられればこのような馬鹿げた声は上がらないと思われます】

ぬいぬいなるほど?」

まくまくたとえば?」

「例えばですか? パッと思い付くのは…ボイコット等でしょうか? それと――」


 蒼唯の強みは、技術力も当然ながらあるが、一番は、可愛いを追求する余り、常識を吹き飛ばしてしまう、独特な発想力にある。

 それを捨てさせ、実用的、有用なんて言う凡人が考える良いアイテムを優先的に造らされるようになった蒼唯は、他の錬金術師より性能の高い商品を造り出すだけのただの『錬金術師』であるだろう。

 

 そのため、リリスの胃の痛みを和らげるという意味では、可愛いを捨てさせるのが最適ではある。

 しかし、それが分かっていても主の不利益になる事は選ばないのがリリスであるため、彼女はぬいたちからの問い掛けに的確に答えていくのであった。

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る