第202話 世論操作

 蒼唯には有用なアイテムに絞って製作させる。その強制が難しくとも、通常の生産系探索者のように指名依頼等によりアイテム製作を依頼できるような環境を造る。

 これまでに様々な者がそういった事を実現しようとして、様々な要因に潰されてきた歴史がある。


 そもそもの話、ダンジョン利用の制限や素材供給の制限等、探索者協会が探索者を諌めるための制裁行為は、蒼唯にノーダメージどころか、蒼唯がダンジョンアイテムを造る頻度が減る結果、蒼唯以外へのダメージしかない意味の無い行為である。

 そういった背景から探索者に対して絶対的な権力を保有していた国際探索者協会が蒼唯に完全敗北したのだ。


 世論操作をしようとした者もいたが、平時に正義の英雄ヒーローを批判すれば、批判した側が叩かれるのは世の常である。

 世間的に見れば、蒼唯は数々のダンジョンを崩壊させ、ダンジョンを人類に有益な存在へ変えた英雄である。そのため、蒼唯を無理に批判した者たちは、炎上を経て消えていった。

 しかし現在は、ダンジョン災害が発生してからまだ日が経っていない状況である。そうなると世間の考え方を変わってくる。

 

【それで、世論を煽った方の後ろに、過去、蒼唯様にこっぴどく振られた団体様方がいるのね?】

「『はい。調べさせたところ、このコメンテーターの他にも、彼らがバックに着いている者たちがいるようです』」

【なるほどね。はぁー、気が重いわね】

「『いつもとは異なり、このコメンテーターに賛同する声も一定数いるようです』」

 

 余裕があれば別だが、自身の人権が脅かされそうな状況下で他人の人権まで気にしてられる人は少ないという事である。


 ただ、どれだけ世間が騒ごうが、蒼唯がその世論に負ける姿は想像できないリリス。

 探索者ならば有益なアイテムをもっと造れ、見た目に拘るな等と言われ、可愛い系のアイテムが造れる環境で無くなれば、簡単に『蒼の錬金術師』としての立場を手放せてしまえる人物なのだ。


「『蒼唯様がアイテム製作をしなくなるのであれば、世界の損失です』」

【……まあ、蒼唯様がアイテムを造らなくなるだけなら、人類が危機的状況下に置かれるのみで、私やぬい様、まっくよ様的に困らないから構わないのだけれどもね?】

「『それは…』」


 柊や星蘭といった探索者側の蒼唯をよく知る者たちは、今回の世論操作によって、蒼唯が探索者業界と縁を切る可能性を考え焦っているかもしれない。しかしリリスとしては、蒼唯が探索者業界から縁を切った所で最悪構わないと思っていた。

 ぬいやまっくよ、リリスやルーシィ、輝夜や坪夫妻がいるため完全に縁切りは蒼唯の性格上出来ないだろうが、距離を置くならリリスの胃痛的にも有難い。


 リリスが恐れているのは逆の場合である。

 蒼唯は非常識ではあるが、善良である。全くの他人の命は兎も角、身近な者たち、例えば世論に影響されたクラスメートたちに、良心に訴えかけられた場合を恐れていた。


【蒼唯様が可愛いは有益って認めさせるですなんて張り切れば、どんなぶっ飛んだアイテムが生み出されるか分からないわ。しかもそういった謎のやる気に満ちた場合、私でも抑えられないわね】

 

 リリスは配下の協会職員に聞こえないよう小声で呟くのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る