第201話 潜在的な思考

魔法の絨毯そらとべじゅうたん』でモンスターを蹴散らしながら飛行する映像がSNSで拡散され注目されていた沙羅と七海たちは、その日のうちにダンジョンから帰還していた。

 『天空の城』は再挑戦不可という設定であることが、先発隊の壊滅により判明していたため、当初、二人も攻略に失敗したのだと思われた。しかしそれが誤解てあることは、彼女たちのインタビューにより明らかになった。


「では、『天空の城』から戻ってきたお二方ですがまだ挑戦権は失っていないと言うわけですね!」

「はい。城内に記録地点セーブポイントがありましたから、そこから戻ってきました」

記録地点セーブポイントですか。階層型ダンジョンにはよく見られるシステムですね」

「ベアー!」

「再挑戦不可という事でしたので、一度挑戦したら帰還できないものと考えられてましたが、そうではないと言うことですか」

「そ、そうだと思います」

「フェフェ!」

「次に話題の絨毯について―――」


 攻略度合いに応じて報酬が変化する『天空の城』に置いて、『記録地点セーブポイント』の存在は大いに助かる。

 今は城に入る前の空路で手間取っているが、裏を返せば『記録地点セーブポイント』から、再出発が可能となる事が判明した今、入城に全力を注げるようになった、と言うことであるためだ。


 そのため、とあるニュース番組のダンジョン特集で、沙羅たちのインタビューは、明るい話題として紹介された。

 

「『ぬいぐるみ少女』として有名な桜花沙羅さん、水瀬七海さんのインタビュー映像でした。これは『天空の城』に挑む探索者たちには嬉しい報せですね」

「とは言え、今のところ攻略の糸口も掴めていない状況に変わりありません。今回のお二人も言い方は悪いですが、『蒼の錬金術師』のアイテムによるごり押しで突破したに過ぎませんし」

「そうですね。良いニュースだとは思いますが、現状がそれ以前の問題なので…」


 しかし、探索者業界に詳しい者ほど『魔法の絨毯例外』があったからこその結果だと考えていた。


「では、やはり『天空の城』攻略には蒼唯さんの協力が不可欠だと?」

「そこまでは言いませんが、現状は…」

「そ、そうですね」


 探索者一同の声を代弁すれば、蒼唯が飛行アイテムを量産してくれれば話は早いのにであるが、それを口に出し、蒼唯の機嫌を損なえばどうなるかは、探索者業界に詳しい者ほど理解しているため言葉を濁すしかない。

 

 出演者の多くが気まずい雰囲気となる中、一人の有識者が発言する。


「…私は『天空の城』に齋藤さんが出張る必要は無いと思いますよ。と言うか、これまでもそうでしたし、彼女の製作した『ぬいぐるみ』? あれにダンジョン攻略は任せて、もっと有益なアイテムの製作に集中すべきでは無いでしょうか?」

「……と、言いますと?」

「例えばですが、ダンジョン災害による被害を回復させるようなアイテムや、今後、災害を予防したり被害を防止するアイテム等です」

「で、ですが彼女は気紛れでそういったモノを製作することもありますが、どちらかと言えば―――」

「可愛い縫い物等のハンドメイドが主流、でしょう? 趣味をとやかく言う気はありませんが、まだダンジョン災害の傷跡が残っている地域もあるような状況なら話は別だと思いますが」

「それは…」


 有識者の発言は、『蒼の錬金術師』としてしか蒼唯を知らない者たちが潜在的に思っていた事であった。

 乱暴な言い方をするのであれば、遊んでないで私たちのために働けである。


 一般的な感性として、一般人が巨大な権力によって自由を奪われるような事態になれば、世論は一般人の味方となるだろう。

 しかし、自分たちが危機的状況下であり、その一般人の自由と引き換えに危機を脱せられるとなれば、世論は容易くひっくり返るのである。


 この有識者のコメントを皮切りに、世論は少しずつ都合の悪い方向に傾いていく事になるのであった。

 

 


  

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