第200話 躍進の秘密

 『魔法の絨毯そらとべじゅうたん』が撮影された映像を、日本探索者協会本部で見たリリスは愕然とした。

 

【前に見せて貰った『飛び出す刺繍猫トリックニャート』はどこかで御披露目されるだろうと思ってましたが、ルーシィ様の権能付きアイテムなんていつの間に!】


 他のスキルならいざ知らず、ルーシィの権能たる『命令権』と『代行権』を付与したアイテムだと言うことは、長年、彼女の権能を見続けていたリリスはすぐに気が付くのであった。


 基本的にルーシィが蒼唯家に来る時は、リリスが連れてくるようにしているため、リリスの知らない所でルーシィが蒼唯の製作に手を貸す事はない筈である。


【もう遅いかもしれませんが、一応確認しに行きますか】


 リリスはそう言い、魅了済みの協会幹部げぼくたちに、リリスが請け負っている協会の諸々の仕事を任せ、蒼唯がいる筈の家に戻るのであった。


 蒼唯家に帰宅したリリスは、普段通りに趣味全開の縫い作業をしている蒼唯に『魔法の絨毯そらとべじゅうたん』について尋ねた。


「『命令権』とかが使われてる理由です? あー、リリスはルーシィがこき使われて無いかと心配なんですね。それなら大丈夫です」

【もう、とはどういう事でしょうか?】


 蒼唯の何の気なしに発した、もうという言葉からとてつもない嫌な予感がしたリリスは聞き返す。


「この前ぬいたちが手に入れた茸畑あるじゃないです」

【茸畑…ああ、『ミラグロ』の事でしょうか?】

「正式名称はちょっと覚えてないですけどそれです。そこでこれまで以上にぬいが茸を育てれるようになったですからもう大丈夫です」

【茸………あ!】


 リリスは思い出す。『ミラグロ』攻略の時に『命令権』や『代行権』を行使された『のこちゃん』たちが居たことに。

 そして気が付く。『ミラグロ』という土地を手に入れた結果、ぬいが手掛ける茸たちが真価を発揮するようになることに。


 もともと蒼唯の『錬金術師』としての実力はずば抜けていた。中学生の時点で、日本でもトップクラスのギルドである『流星』のマスターから目を付けられる程に。

 しかし、中学生や高校生になったばかりの頃は、今ほどイカれたアイテムを量産していなかった。 

 それは何故かと言えば、素材不足である。

 元々、ぬいを造った切欠もその素材不足を補うためであった。ただ、ぬいを造る前から、星蘭や柊などから提供はあったし、オーダーしてくる者の中には素材を持ち込んで頼むものもいた。


 そのため、普通の探索者が入手可能な素材、に関しては潤沢では無いものの、不足とまで言えない状態であった。

 そうでない素材、『逆様の槌あべこべハンマー』を造るための元となった『反転槌』などのユニーク品などが不足していたのだ。

 そしてそういった品は、普通にダンジョン攻略をしていただけでは手に入れるのは難しいのであった。


「『錬金術師』の弱点は、0から1を産み出せない事です。そこら辺は『魔法使い』たちとかと違うとこです」

【…厳密には『魔法使い』たちも魔力を代価にして火や水を産み出していますが、そうですね】


 蒼唯の『錬金術師』としての実力は、この1年程で、元々人類の最高峰レベルの腕前から更に飛躍を繰り返し意味不明な領域まで行き着いた。

 しかし、そうなった所で『錬金術師』として決められた枠から逃れられる事はない。

 アイテムにしてもスキルにしても、それを造り出す要素となる素材が無ければ蒼唯でも造り出せない。


「ぬいぬい!」

「そうですね。ぬいのお陰です。いつも助かってるです」


 そういった特殊な素材不足を解決したのがぬいである。

 『錬金術師』が不可能である0から1を生み出す事が出来る1つの答えが生物、この場合、ぬいの茸である。

 特殊な要素を備えた茸たちを、繁殖させ増やすことが出来るのがぬいの『茸師』であった。


【……なるほど。『ミラグロ』で育てられているのは絶品茸だけでなく、そういった蒼唯様の趣味の材料となる茸も大量に育てられるているのですね】

「ぬーい!」

【なるほど…『ミラグロ』イコール魔族因縁の都市というイメージが強すぎましたが、最早彼処は『のこちゃん』たちが支配する茸の都市でした】


 過去の印象から『ミラグロ』で茸栽培をされているという発想が出来なかったリリス。

 

「まく~」

【いいのですまっくよ様。出来れば早めに知らせて頂けたら嬉しかったのですが】

「まくまく」

【まあ、そうですよね…知らせて頂いたとして止められた訳ではないですよね】


 リリスが、ルーシィの力と蒼唯の力が合わさった作品を造らせないように画策していたのを知っていたまっくよは、一応はリリスの味方をしていた。

 しかし消極的な味方であり、蒼唯のためにと畑作りから張り切っているぬいを止めようとする程では無いのであった。

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