第198話 魔法の絨毯

 蒼唯は、今にも絨毯から飛び出て来そうな謎の迫力を持った、可愛らしい三毛猫の刺繍入りの絨毯を取り出し『魔法の絨毯そらとべじゅうたん』だと説明する。

 蒼唯ならば宙に浮かぶ絨毯くらい造り出してもおかしくは無い、とは沙羅や七海も思っていた。そのため彼女たちは、蒼唯が絨毯を取り出しこれが飛行アイテムだと言った事には驚かなかった。

 ただ一般的に考えて、絨毯に乗り空中飛行するには安全面が不安過ぎる。ましてや『天空の城』に向かう道中に使用することを考えれば尚更である。


「蒼唯さんを疑う訳ではありませんが、この絨毯は安全なんですか?」

「安全かと聞かれると危険です。試行錯誤した結果、命令が効きすぎちゃったです。飛ぶこと命みたいな絨毯なんです。あ、でもです。安心して欲しいですけど、これに乗った者が絨毯から落ちることは無いです。それだけは安心するです」

「そ、それだけは、なんですね」


 『命令権』等、説明しにくい事もあるので沙羅たちには、大切な事だけ伝える。

 ジェットコースター的な危険はあるが、落下の危険だけは無いのだと。


 蒼唯は、『魔法の絨毯そらとべじゅうたん』に飛行スキルを幾つか付与した上で、『空を飛べ』という命令を与えた。

 本家本元のルーシィの『命令権』ならば、その権能のみで絨毯を飛ばせられたかもしれない。しかし蒼唯が『ミラグロ』にて、『命令権』を受けた『のこちゃん』たちから抽出した『命令権』の残滓。これから抽出できた権能は、そこまで強力では無かった。

 そのため、そのアシストとして飛行スキルを幾つか付与したのである。


 そして、飛行スキルと『命令権』の他に、絨毯には『代行権』も付与していた。

 『代行権』とはそれが与えられた者も、『命令権』を使えるようになる権能である。

 そして絨毯は与えられた『代行権』を行使して、自身に乗るものに命令する。『私から落ちるな』と。

 

 この『魔王』の権能コンボにより、危険だけど安心な魔法の絨毯が生み出されたのである。


「蒼唯さんの説明からすると、『魔法の絨毯そらとべじゅうたん』が無事なら『天空の城』まては確実に辿り着けるってことですよね。となると、飛行中の絨毯さんを守る必要がありますね」

「ベアー!」


 この絨毯の欠点にバードストライク的な事故が起きやすいと言うモノがある。人を乗せない試用で飛ばせた普通のダンジョンでも、立ちはだかるモンスターたちに衝突しまくった実績がある。

 ただ、その欠点は別のアイテムを取り付ける事で、殆ど解決していた。

 

「絨毯の守りはそれほど気にしなくて良いですよ。そのためにこれを付けてるですし」

「これ? これって猫の刺繍ですか?」

「そうです。『飛び出す刺繍猫トリックニャート』のミケです。おい、ミケ、同乗者に挨拶です」


 蒼唯がそう猫の刺繍に話し掛けると、平面的な刺繍てあった筈の猫は、ぬっと飛び出てくる。

 飛び出て来た猫は、沙羅たちにペコリとお辞儀をふる。挨拶を終えた猫は、また元の平面の刺繍に戻ってしまう。


「あ、戻っちゃいましたね」

「ミケは刺繍であることに誇りを持ってるみたいです。最近造ったばっかりですけど、飛び出てきた所をあんまり見ないです。折角のトリックアート仕様なのにです」

「本当に飛び出てくるモノは、トリックアートとは呼ばない気もしますよ」

「まあ、いいです。それより、もし絨毯が事故りそうになっても、ミケの猫パンチで防いでくれるようになってるですから、沙羅たちは、自分の身を守る事に集中するです」

「可愛過ぎる防御機構な気もしますが、ありがとうございます!」

「ベアー!」


 沙羅とベアーくんが蒼唯にお礼をする。


「……それで、さっきから七海は、何をぼーとしてるです?」

「うーん、気持ちは分かります」

「そうです?」


 そんな蒼唯たちの会話に入らずにいた七海は、蒼唯作のミケの可愛さに終始圧倒されていたのであった。


「………………ミケちゃん。可愛い!」

「フェ~?」 



 

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