第197話 望んだ成長

 蒼唯の家に来客が来ることは珍しい。

 両親が殆どの期間家を空けていることもあるが、現在では、幾つかの部屋をダンジョンとして魔改造していたり、存在を一応秘匿している、リリスたちも半分同居状態のため、最近では殆ど家に人を呼ばなくなった。

 例外は、幼馴染みの輝夜と、ほぼ蒼唯の保護者と言って差し支えない存在である坪夫妻、ぬいとまっくよの大親友こはくを除けば、今、目の前にいる者たちくらいであった。


「それで、フェフェがダンジョン探索には必要が薄い、空中戦を意識したようなスキルばかり『食トレ』で獲得するのが気になるです?」

「は、はひ!」

「七海ちゃん。気持ちは分かりますが、緊張しすぎですよ」

「で、ですが沙羅先輩。目の前に憧れの蒼唯さまがいらっしゃると思うと」


 蒼唯が直接メンテナンスする必要のある『ぬいぐるみ』を所有する少女、沙羅と七海である。

 そして、今日沙羅に連れられて来た七海は限定一個の『ぬいぐるみの卵』の抽選に選ばれる程度には『ブルーアルケミスト』を愛用していた蒼唯のファンである(実際に『ぬいぐるみ』を落札したのは七海の父親であるが)。

 そんな彼女は、憧れの蒼唯との初対面に、蒼唯たちも心配になるくらい緊張していた。


「話を戻すです。不要なスキルを『食トレ』の栄養分に戻す事は可能です。だから、七海が望むなら空中戦想定のスキルもリサイクルは出来るです」 

「は、はい!」

「ただ、フェフェは、ぬいやまっくよと違って、基本的に所有者である七海の異に反した成長はしないです。意識的になのか、無意識かは分からんですけど、フェフェがそういう風に成長したってことは、七海がそう望んだ筈です」


 ぬいたちとフェフェたちの一番の違いは魂である。もっと言えば、単独で動かす前提の設計か、所有者と共に動く前提の設計かの違いである。

 フェフェは当然後者であり、言ってしまえば所有者である七海の想像のままに成長するよう設計されている。卵から孵化させた事を考えるとその要素は沙羅のベアーくんよりも強い。

 

 そのためフェフェが空中戦を想定したようなスキルを多く習得したのならば、その原因は七海にあると蒼唯は断じた。


「なるほど。ということは七海ちゃんは今話題の『天空の城』に興味があるってことですね」

「そこまでは分からんです」

「た、確かに『天空の城』行ってみたいなーとかは最近夢想していましたが…そのせいでフェフェが」

「さっきも言ったですけど、私がいればやり直しは可能です。まあ、フェフェは鳥ですし、そういうスキルが一杯でも、そんなに気にすることもねーと思うです」

「はい。逆にフェニックスなのに、空中戦弱いって方が可哀想かもですよ」

「フェ~!」


 その通りと言わんばかりに、フェフェが羽ばたいた。

 魂で主人が悲しんでいる事を察知したフェフェは、元気付けようと七海の周りを飛び回るのであった。


「というかです。折角、空中戦用のスキルが多いなら、『天空の城』に行ってみたら良いです。訳あってぬいとまっくよは、そのダンジョン行けないですし」

「で、ですが…」


 蒼唯の提案は、七海も一瞬だけ考えたモノだ。

 しかし七海は飛行手段を有しておらず、フェフェに運んで貰うのは通常なら良いが、戦うことを念頭に置いた場合不適当であった。

 ただ、普通の探索者に比べてフェフェという希望があったため、余計に『天空の城』を意識していた結果、フェフェの成長という形に残ったわけだが。


 そんな七海の考えを分かっていた訳では無いだろうが、渋る七海に蒼唯は言う。


「あ、そうです。もし『天空の城』行くなら、とあるアイテムの試用を手伝って欲しいです。出来れば沙羅とベアーくんもです」

「アイテムの試用ですか? どのような?」

「ベアー?」

「モノに命令するってスキルがあって、それを模して作った試作品です。名付けて『魔法の絨毯そらとべじゅうたん』」

 

 そう言いながら蒼唯は絨毯を取り出すのであった。

 

 

 

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