第192話 勇者の選定

 ふわふわと気持ち良さそうに空中浮遊を披露するまっくよと、空中を縦横無尽に駆け回るぬい。

 『変幻自在』により、まっくよは身体全身を空中に浮かぶ物体に、ぬいは爪が空気を掴めるような物体に、変化させたため出来ることであった。


「ぬいぬい!」

「まく~」

「楽しそうですね。まあ、ぬいとまっくよなら特に問題なく『天空の城』に入れそうですね。『ぬいぐるみ』なので報酬が受け取れるか分からんですけど」

「ぬい?」

「まく~」


 『天空の城』などの『試練の迷宮』は、『聖神』が『勇者』の仲間を選ぶ目的で創造したダンジョンであるため、『ぬいぐるみ』のぬいたちが、その対象になるかは不明である。

 とは言えぬいたちになぜダンジョンに行くのかを尋ねれば、

ぬいぬいおいしい

まくから~」

と答えるくらい、報酬などに興味が無いので、対象外だったとしても問題はない。

 ただ、現在はリリスが探索者協会の黒幕として対応を考え中であるし、そもそも『天空の城』は日本以外の場所で出現したダンジョンである。

 これが普通のダンジョンであればいつも通り好き勝手に攻略も出来たのだが、『天空の城』は色々と特殊なダンジョンであり、後のフォローの大変度合いが桁外れなため、様子見する事になるのであった。


「まっくよのふわふわを見てたら眠くなってきたですね」

「ぬいー?」

「まくまく!」

「じゃあ、リリスたちが帰ってくるまでお昼寝ですね」


――――――――――――――――――― 


 リリスはルーシィを連れて『エデンの園』に来ていた。

 ルーシィがサタンもこっちに来ているのを知り、挨拶をしたがったのもあるが、一番は、リリスたちがいた世界の諸々について一番詳しいのがサタンであったためだ。

 

 ぬいに生やしよびだして貰うのは、流石にルーシィには衝撃が強いと思い、遠慮したのだが、サタンは前の世界から大幅なイメージチェンジをしていたため、どっちにしろ大差無かったかもしれない。


〖わー、頭に茸だー、サタンさんも『のこちゃん』に?〗

【『のこちゃん』というのが何か知らんが違う。…ただ他人とは思えん響きだ】

【サタン。貴方は茸に毒されすぎ】


 とは言え、『魔王』としての経験値が豊富なルーシィは、サタンを見た瞬間は驚いたが直ぐに順応するのであった。

 

 久しぶりの再会のためか、3人での会話が弾む。


【それで、ルーシィに説教をしたのか? お前はバカか?】

【何がよ】

【普通に考えれば分かるだろう。『命令権』を持つルーシィが封印される訳が無い事くらい】

【なんでよ?】

【『命令権』を使えば封印などどうにでもねじ曲げれる。『命令権』が行使できないほど弱っているなら、封印なんてまどろっこしいやり方せず、殺すだろう?】


 サタンからそう言われ、納得してしまうリリス。


【…確かに】

【我は、封印されたって一報が入った時点で『魔王』が嫌で逃げ出したなと考えていたぞ?】

〖うわー、私、信頼されてない〗

【お前の『魔王』嫌いは誰しも知っていたからな。お前以外の誰かが『魔王』を持つと魔国が不安定と成りすぎるからお前がずっと『魔王』だったが、代わってやりたいと言っていた奴らは多い。まあ、なんだかんだ人望はあっただろ】


 先代から、『魔王』ちょうだいで奪い取れてしまったルーシィが、例え誰かに『魔王』を譲渡したとして、いつでも奪える状態である。

 そう言った不安定さを考えるとルーシィを『魔王』として君臨しててもらった方が都合が良かったのだ。

 そのため封印の一報を聞いたサタンは、事の成り行きを正確に予想できていたのだ。


【まあ、『勇者』もルーシィと同じ考えであったとは思わなかったがな】

【あ、そうだ。今『天空の城』が出現してるの】

【ほう? 『試練の迷宮』か。となるとルーシィが野に放った『勇者』がこっちに現れるかもな】

【貴方もそう思う?】

【今代、いやもう先代か。『勇者』を捨てた勇者をあの神がもう一度選ぶとは思えんからな】

【なるほど。となると、捜索範囲は世界中ね。配下たちを使って…】


 前の世界の『勇者』が召喚されるのであれば、リリスたちも一目見れば分かる。しかし世界中の人々から『勇者』に選ばれた存在を探すのは大変である、とリリスは考えた。

 そんな考えをしているリリスを見て呆れた様子でため息を吐くサタン。


【リリス、世界の調停者を気取っているお前が今、やらなければならない事を教えてやろうか?】

〖世界の調停者?〗

【…言い方が嫌みったらしいわね。なにかしら?】

【あの餓鬼…蒼唯が『勇者』に成るのを阻止することだろう?】

【は? 蒼唯様が『勇者』? 何の冗談よ。あの方はどちらかと言えば『魔神――】

【『勇者』とはその世界で一番、人類を救った者、もしくは救える可能性がある英雄の中から『聖神』が好んだ者に与えられる。あの犬と猫の功績もあの餓鬼に加算されるのなら十分資格があるだろう】


 今でさえ規格外な蒼唯だが、『勇者』スキルを手に入れたらどうなるか。絶対に『勇者』スキルを材料にまた訳の分からないがぶっ飛んでる物を創造してしまうだろう。

 下手したら蒼唯自身が更なる進化を遂げる可能性もある。


【ど、どうすれば!】

【さあな。我はこの世界がどうなろうと構わないか――】

〖…蒼唯さんが『勇者』になったら困るな〗

【まぁ、『聖神』に気に入られなければ能力や実績があろうと選ばれない。『聖神』が創った『試練の迷宮』をめちゃくちゃにすれば候補から外れるだろ】


 リリスには厳しいがルーシィには甘いサタンは、蒼唯が『勇者』とならないための案を出すのであった。


 

 

 

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