第190話 天空の城

 リリスの仕事量は莫大である。

 自分のダンジョンであり、現在はアミューズメント施設として開放している『吉夢の国』の運営と、日本探索者協会の上層部を影で操る黒幕として、日本の探索者関係の諸々の運営。更に予測不能な蒼唯、ぬい、まっくよのお世話から後始末までを担当している。

 それに加え、昔の上司兼友人であるルーシィが最近、この世界にやってきたため、そのお世話も追加された。ルーシィは自身の『命令権』などの影響力の高さを知っているため、蒼唯たちほどハチャメチャな行動はしないが、天然な所があり、目を離し過ぎるのも怖いのである。


 そんな忙しいリリスは、今日は日本探索者協会で、今後の運営方針についての会議に出席していた。リリスが日本探索者協会の黒幕になった事は、下僕となった上層部以外だと、ごく一部の職員以外知らないため、今回の会議も、表向きリリスは、協会長の秘書役での出席となった。


 会議はつつがなく終了する。これまで探索者協会の会議を無駄に長引かせていた上層部の者たちが、自分たちの既得権益が脅かされかねない意見に賛同したり、建設的な意見を連発したため、予定よりも30分以上巻くことになった。


【それでは、今日、予定していた議題は以上となります】

「なんか今日の会議は有益だったな…なんて」

「おいおい、それじゃあいつもの会議はって話になるだろ。まあ分からんでも無いが」

「やめろやめろ、上手くいきすぎてるなんて言ってると――」


 会議が終わり、出席していた職員たちが会議室から退出しようとすると、若手職員が慌てた様子で入室してくる。


「し、失礼します! 協会長、大変です!」

「こういう事が起きるんだよ…」

「悪い」


 若手職員が持ってきた大変な案件は、日本探索者協会としてもどうすべきか方針を決定しておくべき案件であったため、終了した会議は一部延長とする運びとなった。

 

―――――――――――――――― 


 世界中の探索者たちが、SNSに投稿された1つの動画に注目していた。その動画とは、ダンジョン誕生の瞬間を捕らえた動画であった。


【海外の何もない空にヒビが入り、その直後に城が出現したのです。】

「なるほどです。だから『天空の城』なんですね。まあ空に城が出来たら凄いとは思うですけど、それだけで探索者協会が大慌てになるです?」


 天空に浮かぶ城。確かに珍しく、それを探索したいと考える探索者が大勢現れてもおかしくは無い。

 しかしダンジョンの出現というだけであれば、特段探索者協会が騒ぐほどの出来事かとも思える。


【あれはただのダンジョンではありません。あれは3つの『試練の迷宮』が1つなのです】

「『試練の迷宮』です?」

【はい。あれは『勇者』を創造した『聖神』が『勇者』の仲間を選ぶために創り出したと言われている迷宮のうちの1つなのです】

「『勇者』の仲間です?」

【『試練の迷宮』は1人1度までしか挑戦出来ない代わりに、探索の実績に応じて報酬が与えられるある種のテーマダンジョンとなっております。その報酬の中には特別なスキルやジョブ等も含まれています】

「その事を協会とかは把握してるです?」

【『勇者』関連の話は知られおりませんが、挑戦権の話は、実際に出現後、一部の探索者たちが、魔法やスキル、飛行機等を使い『天空の城』に入ろう試みましたが、入城前に城を守るモンスターたちにやられました。彼らは、挑戦権を失い、再入場出来なくなっているようです】

「へーです」


 入城すら出来ないのであれば報酬も何も無いだろう。

 『試練の迷宮』は『転職の神殿』のような人類救済システムのように見える。しかし、その迷宮がそもそも上空に浮かんでおり、挑戦できる探索者は少ない。

 その限られた探索者たちも空中戦という慣れない戦闘で撃退されてしまったのだ。。


【テーマダンジョンの性質上、リスクは再挑戦不可くらいなため、挑戦を望む探索者は多いのですが、中々。ということなので、蒼唯様の方に誰かしらから飛行に関するアイテムの依頼が来るかもしれません】

「うーんそれは、面倒な予感がするです。要するに、城が空に浮かんでるからダメなんですよね」

【はい。色々とありますが、問題の大部分は――】

「それなら、飛行したい人たちにアイテムとか造るよりも、城を地面に墜とした方が手っ取り早くないです?」

【…………『天空の城』ですのでそういうのはちょっと】

「なるほど?」


 リリスの『天空の城』ですのでという説明は良く分からなかった蒼唯であるが、リリスがとても困った表情を浮かべていることは察したので、納得する事にした蒼唯であった。





 




 


 

 

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