第187話 冬休み最終日

 クリスマスイヴに始まりお正月に終結したダンジョン災害によって、吹き飛んでしまった冬休みも最終日を迎えた今日、蒼唯は坪家に遊びに来ていた。

 

 蒼唯以外でダンジョン関連の詳細を知っているのは秀樹と優梨花くらいであるため、今回のダンジョン災害の件についても情報共有しておかなければなりません、とリリスの進言もあり、新年の挨拶を兼ねて遊びに来たのであった。


 秀樹たちには、事前に今回のダンジョン災害の原因の1つであるルーシィについて簡単に伝えてあり、ルーシィを連れていく事にも了承は得ていた。


「ダンジョン災害は、ルーシィの魂を使ってた『ミラグロ』のボスが引き起こしてたけど、ルーシィが『命令権』を破棄したお陰で終息したんだよね?」

【はい。その通りです】

「ダンジョンにすら作用する権能か。流石はリリスの元上司で異界の『魔王』か…実際に見るとそんな凄そうには到底見えないけど」

「何と言うか、普通に可愛らしい女の子って感じよね」

【ルーシィ様が『魔王』として君臨なされていたのは、ほぼ事故のようなものですので】


 しかし、簡単に教えていた情報と、実際のルーシィの間にある確かなギャップに最初は戸惑っていた。


「ぬいー」

「まく~」

「わん!」

〖あ、え? 私も? えーと、まおー!〗

「ダメですよルーシィ。『魔王』だからって鳴き声がまおーは、安直が過ぎます」


 ぬいたちに見られて困った挙げ句、鳴き声を上げた様子からは、『魔王』らしさは微塵も感じない。

 仕舞いにはぬいに「ぬいー」、まっくよに「まく~」と言う鳴き声を与えた蒼唯にダメ出しされている始末であった。

 

【…………】

「リリス、いくら主とは言っても、言いたいことは素直に言った方が良いと思うよ?」

【いえ、言いたいことなど何も】

「まあ、リリスが良いならいいけどね」


 空気の読める女、リリスは当然【蒼唯様の方が安直でしょう】等のツッコミなど言わないのであった。



 ダンジョン災害の日本での被害は、他国と比較すると最小限と言えるモノであった。

 逆に探索者が即座に対応できなかった国は、ダンジョン周辺の建物や住んでいる住民に被害が生じていた。

 

 そのため日本から多くの探索者が被害の大きい国に随時派遣され、『氾濫』によりダンジョン外に出てくるモンスターの対応や、救助活動を行っていた。

 ダンジョン災害が終結したので、規模は縮小されたが、それでもまだ救助活動を中心に行われていた。

 現役を退いたとは言え、高位探索者である秀樹や、優梨花も召集が掛かり、クリスマスや正月返上で派遣されていたと言う。


「戦闘要員はそこそこ人が足りてたから、ダンジョン災害が終結した元日には、お役御免だったんだけどね。優梨花の料理とこはくの捜索能力は貴重だったからね。かなり引き留められちゃったよ」

「彼処まで言われたら仕方ないわよね」

「わんわん!」


 ポーションなどを与えるより、圧倒的に元気になれるような料理を量産する優梨花と、瓦礫に閉じ込められている人を次々に発見していく、こはくは、災害現場にいる者たちにとっての救世主であったため、予定よりもかなり引き留められたのだ。


「流石は師匠とこはくですね」

「でも、ルーシィちゃんやぬいたちのお陰でギリギリ松の内までに戻ってこれたわ」


 そう優梨花は感謝の言葉を述べる。


「そう言えば、輝夜も昨日まで派遣されてたみたいな事言ってたですね。寝る間もなくて、冬休みの宿題が~って嘆いてたです」

「まく?」

「あ、寝る間はあったらしいですね」

「まくまく~」


 そんな優梨花たちの話を聞いて輝夜からのメッセージを思い出した蒼唯がメッセージの内容を喋ると、睡眠警察のまっくよが顔を覗かせてきた。

 下手をしたらこのまま輝夜の家に突撃してしまいそうな予感がした蒼唯は、慌てて訂正するのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る