第186話 第2の少女

 クリスマスイヴに発生したダンジョン災害は、正月に終結した。

 原因不明の災害であったことから、終息直後は再発が危険視されていたが、蒼唯要素満載のダンジョン『蒼の都』が発見され、その直後に柊から、ダンジョン災害の原因をぬいとまっくよが根絶したとの情報が届けられたことで、各国の探索者協会は終結と断じた。断じるしか無かった。


 蒼唯が解決してくれたのなら安心だとする者も多かった一方、たった1人の少女とその少女によって作製された『ぬいぐるみ』に世界の命運を託し続けていられる程、楽観的な者ばかりではなかった。

 特に蒼唯の性格を知る者はその傾向が強かった。


 『ぬいぐるみ少女』と言う愛称で親しまれ、相棒のベアーくんと共に探索者として絶賛活躍中の沙羅も同様であった。


「では、七海ちゃん! とフェフェちゃん、今日はよろしくお願いします!」

「ベアーー!」

「よ、よろしくお願いします沙羅先輩、ベアーくん先輩!」

「フェ~!」


 本日彼女は、父親が『ブルーアルケミスト』で『ぬいぐるみの卵』を落札しプレゼントされたことで、巷では第2の『ぬいぐるみ少女』と呼ばれ始めている少女、水瀬七海と一緒にダンジョン探索に来ていた。


 『ぬいぐるみの卵』から孵化した『不死鳥フェニックス』型のぬいぐるみと言う稀有な代物を手にした素人探索者。

 そんな扱いが難しい新人の指導役として、沙羅に白羽の矢が立ったのである。

 探索者経験の薄い沙羅は一般的な探索者としてのいろはは余り教えられないが、そこら辺は、今日不在の、『小悪魔系おじさん』沙羅の父親、彬羅の長年の探索者経験が役立つだろう。


「と言っても、あんまり教えれそうな事無いんですよね」

「ふぇ?」

「フェ~?」

「ふふ、七海ちゃんもフェフェちゃんも反応が同じ、とっても仲良しさんですね」

「ベアー!」


 沙羅の発言に、七海が驚く。するとその驚きな釣られてフェフェも驚いてしまう。

 そんな微笑ましい光景に笑みが溢れる沙羅。


「は、はい。私とフェフェは、まだ出会ったばっかりだけど、凄く仲良しです!」

「フェ~~!!」

「ですよね。私もベアーくんとすっごく仲良しなんです。『ぬいぐるみ』と一緒にいる上で仲良しな事以上に大切な事はありません。なのでそう言った点ではもう教えることは無いんですよ」


 ぬいやまっくよと、ベアーくんやフェフェの一番の違いは魂にある。

 ぬいたちは、探索に蒼唯が付いていかない事が前提であったちめ、独自に考えられるように魂を選んだ。今は『魂への干渉』で改良を続けた結果面影は無いが。


 反対にベアーくんたちの魂は、持ち主、ここで言うところの沙羅や七海の思考を、注がれた魔力を通じて感じとりそれに呼応した行動を取る『共鳴する魂レゾナンスソウル』を改良したモノである。

 そのため『ぬいぐるみ』の成長は持ち主次第な部分があり、その成長に一番大切な事が仲良し度である。

 とそんな論理ロジック等、沙羅は微塵も分かっていないが、感覚的に仲良しだと良いと感じ取っているのであった。

 

「で、でもやっぱりダンジョンにはいっぱい、モンス――」

「グギャァァァ!!!」

「ター、きゃーー! やっぱり」

「フェニ? フェーーー!!!」

「ベァ」

「うわー、凄い火力。これでまだ産まれたてなんだよね。流石は蒼唯さんの『ぬいぐるみ』」


 七海はまだ、モンスターに慣れていないのか、突然出現したモンスターに驚き悲鳴を上げた。しかし、その悲鳴を聞くや否やフェフェは、口から焔を吹き、そのモンスターを消し炭にする。


「という感じで、モンスター関連は序盤の内は心配しなくても良いですよ。ただ、私たち自身も成長していかないと後々厳しくなっちゃいますから頑張ってください」

「は、はい。頑張ります。ありがとうねフェフェ!」

「フェーー!」


 こうして沙羅たちは、ダンジョンを進んでいくのであった。




☆☆☆☆☆


 孵化したぬいぐるみの候補にハムスターがいました。


 ふとハムスターという字面から、スター甘噛みハムハムする姿しか想像でき無かったからです。

 流石に安直だったのと、そもそもハムスター卵生じょねーしなと思い却下しました。


 

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