第182話 人生は選択の連続である

 柊からよく分からないメッセージが届いたため、ぬいたちの『ミラグロ』襲撃が上手く行っているのだと確信した蒼唯は、旧『狂気の研究所』に連絡を取り、魔王の肉体を取り寄せ、最終調整を開始した。


 そして最終調整も完了し、後はぬいたちの帰りを待つだけになった丁度その時、リリスが知らない者を連れて帰ってくる。

 リリスは、取り敢えず魔王の肉体を確認し、外見には変化が無い事にほっと胸を撫で下ろす。しかしまだ油断は出来ない。


「お帰りですリリス。そちらは…『魔王』ですね?」

【はい、その身体の持ち主であるルーシィ様です】

〖は、初めまして。ルーシィと言います!〗

「初めましてです。私は蒼唯です。よろしくです…それにしても早かったですね? もう少し時間が掛かるものだと思って――あれ? ぬいたちは一緒じゃ無いです?」

【はい、ぬい様方には『ミラグロ』の後始末をお願いしております。私たちは、蒼唯様がその肉体の調整をしていると聞いたので、急いで戻ってきた次第です】

「急がなくても良かったですけど?」


 順序的には、ぬいたちに任せて戻っている最中に、蒼唯が肉体を持っていった事を知り焦って戻ってきたが正解だが、少し誤魔化してリリスは喋る。


【そうですか…それで、最終調整とはどのような事をされたのですか?】

「調整は調整です。これまで魂を抜き取られ、保管されてた肉体に突然、元気な魂を戻したら危なそうですから、慣らし作業とかです」

【そ、それだけですか?】

「それだけって、もしかしてリリス、私がこの肉体を可愛らしく改造するのを期待してたですか? 期待してくれてたなら申し訳無いですけど、この肉体の持ち主の許可も無く改造は出来んですよ。流石に」


 常識は無くとも良識はある蒼唯は、他人に可愛さの強要はしない主義である。

 蒼唯は可愛らしさ優先で行うため、蒼唯にしか解決できない問題が発生した場合、外見が可愛くなってしまうことはある。リリスの『縫包化』や『小悪魔化』などが代表的な例だが、それらは別に蒼唯が勝手にやった訳では無い。

 選択肢が1つしか用意されておらず必然的に選択せざるを得なかった気もするが、強要はしていないのだ。


【すみません。少し早とちりをしていました】

「よく分からんですけど良いですよ。それで、そっちの準備が整ってるなら、さっさと魂を移動させるですけど、どうです?」

〖は、はい。よろしくお願いします〗

「ならやるです」


 誤解も解けたので、蒼唯は、ルーシィの魂移動を始めるのであった。


 魂の扱いに定評がある蒼唯でも、一度切り離されたた肉体と魂を完璧に元に戻すには、慎重に慎重を重ねる必要があり、リリスたちが思っているよりも遥かに長時間の作業となった。

 蒼唯曰く、後に不具合等が出ても良いなら一瞬であるが、それらをほぼ完全に除去するためには、仕方がないらしい。


 とは言え、蒼唯だからこそ半日も掛からずに作業は終了した。

 魂の移行作業を終えた蒼唯はぐったりしている。


「特に違和感は無いです?」

〖はい〗

「なら良かったです。もし何かあったら直ぐに言ってくれです。直ぐに調整し直すです」

【蒼唯様、本当にありがとうございます】

「リリスの大切な人なら、これくらいするのは当たり前です。気にする――ごめんです」


 そんな時、蒼唯の端末が震えた。端末を確認すると、先程メッセージのやり取りをし終えたばかりの柊からであった。


「メッセージです。えーと、あれ? また柊さんからです」

 

柊:「さっき、ぬいたちが初詣に行ってるって言ってたけど、その行き先ってここか?」


 柊のメッセージに貼ってあったリンクには、ぬいたちが向かった『ミラグロ』の場所が記されていた。


蒼唯:「どうかしたです?」


柊:「その場所でダンジョンが発見されたんだが、中にいた人らしからぬ動きをする者の話だと、このダンジョンは『絶品の茸料理と極上の睡眠を提供し、とある神様に祈りを捧げるダンジョン』らしい」


蒼唯:「ほう?」


柊:「で、その人に案内されてダンジョン内に入った探索者が、祈られてる神様の像を写真撮ったらしいんだが、これ誰に見える?」


 メッセージに添付された画像を確認すると、そこには、蒼唯に良く似た外見をした像が映っていた。 

 驚愕するのはリリスであった。


【『ミラグロ』に飾られていた像は『聖神』のものでした。蒼唯様に似た像など…】

「ぬいとまっくよが後始末をしてるって話ですよね? ぬいたちにダンジョンを弄ることは可能です?」

【ダンジョンの操作はダンジョンマスターのみが可能ですので…】

〖私が最高司祭さんを『のこちゃん』にしちゃってるから可能かも〗

「じゃあ、ぬいたちと、後は『のこちゃん』たちの仕業ですね。…私はもうちょっと凛々しい感じだと思うですけどね」

【そんなこと言っている場合ですか!?】


 前回の反省から急いで蒼唯家に戻ってきたのがリリスであったが、盛大に2択を外してしまう。

 今回の蒼唯はまとも枠であり、目を離してはいけなかったのは、ぬいたちの方なのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る