第181話 振り回され被害者たち

 リリスたちがここに来た理由は全て解決した。『魔王』の魂は盛り返せたし、そのついでに『ミラグロ』も陥落した。

 ぬいたちの功績もあるが、アーサーから肉体の操作を奪ったルーシィが『ミラグロ』ダンジョンマスターものこのこっとしてくれたため、後、やることとしたら後始末くらいである。

 後々の面倒を回避するため、『ミラグロ』が『魔王』を取り返しに来ることが敵わないほど徹底的に叩きのめす必要はある。

 しかし、リリスとしては早めにルーシィには元の身体に戻って欲しいとも考えていた。

 

 するとまっくよが気を利かせる。

 食い気と眠気が絡まなければ、リリスに次いでまとも枠なのがまっくよなのだ。

 

まくあと~、まくまくまかせろ

【ここの後始末はぬい様とまっくよ様が?】

まくまくいいよね?」

ぬいぬいいよ!」

【ありがとうございます。ではルーシィ様、行きましょうか】

【え、う、うん!】


 こうして『ミラグロ』にぬいとまっくよを残し、リリスは、『魔王』ルーシィと共に魔王の肉体が保管されている旧『狂気の研究所』に向かうのであった。


 元々、猟奇的なデザインの合成獣キメラが多かったが、この数ヶ月で愛らしい合成獣キメラが所狭しといる様子は、一種のアニマルセラピーと化していた。


【ここは、『狂気なマッド』グリシアがダンジョンマスターを務めるダンジョンで、今は『ふわふわ研究所』とか『キメラセラピー』とか色々な呼び方で呼ばれていますので、好きに呼んでください】

【『狂気な』グリシアがこれを? この世界に来て性格が変わっちゃったんだ】


 前の世界で、リリスたちから聞いていた人物像とは変わり果てている、現在の様子に驚くルーシィ。

 この程度で驚いていたらサタンを見せたらどうなってしまうのか少し怖い。


【チッ! 何か用事か? 『夢魔姫』いや『ぬいぐるみ』のリリス、と…アーサー!?】


 敵同士である筈の2人が一緒に訪ねてきたことに、一瞬驚くグリシアであったが、蒼唯と可愛さに脳を支配されようとも、変わらないその明晰な頭脳は答えを瞬時に導き出す



『神聖騎士団』団長様一緒にってことは、そちらが人類の敵、『魔王』ルーシィか?】

【よく分かったわね? それならここに来た理由も分かるでしょう?】

【なるほどな。だからさっき、肉体を転送しろって本家の方から話が来たのか】

【本家?】

【あんたらの主人。私の頭の中にいるコピーが分家】

【なるほど…て、え? 蒼唯様が肉体を転送しろと言ってたのかしら?】

【ああ、何か調整するだとか言ってな】


 グリシアから聞いたその言葉により、リリスの直感が言っていた。これは可愛くされるやつだと。


【ルーシィ様! 特急で蒼唯様の家に向かいますよ!】

【え、あ、うん】

【急がないとルーシィ様の肉体が、もふもふかふわふわにされてしまいます!】

【うん? わ、分かった】


 リリスの急変ぶりに少し置いてけぼりをくらうルーシィであったが、その必死さは伝わったようであった。


 急に来て急に帰っていくリリスたちを見送ったグリシアは、かつて『狂気な』などと呼ばれていたとは思えないほど優しい目をしていた。


【あれこそまさに本家に振り回されている者の姿。他人事とは思えん…分かってます、作業に戻りますから! 文句は本家にでも言ってください!】


 そして脳内蒼唯からの催促で、可愛いモノ造りに戻るのであった。

 


 

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