第176話 のこのこパニック

 神官たちを乗っ取った『のこちゃん』たちは、ノコノコと『神聖騎士団』と『神聖魔導団』の宿舎にやってきた。

 『のこちゃん』たちの擬態は完璧である。基本的な動作がノコノコとしており、人間的には違和感があるが、スキルや魔法でバレる心配はない。その証拠に宿舎前の門番たちも怪訝な表情は浮かべたが、全く疑う様子が無い。


「おお、治療院の! 今お前たちを呼びに行こうと…何か、変な動き方じゃないか?」

「そうでしょうか? 神に与えられた動きをしているだけなのですが?」

「そ、そうか? まあいい。そんなことより現在、『神域』が書き換えられるという異常事態が発生し、不調を訴える者が多数出ている。直ぐに治療の準備をしてくれ!」

「ええ、わかったのこ…わかりました」

「のこ? よくわからんが、急いでくれ!」


 少しだけ『のこちゃん』の自我が出かけたような気がするが気のせいだろう。

 たとえ疑問に思った所で特別な能力でも無い限り『のこちゃん』の存在に気が付くことは出来ない。

 『のこちゃん』は治療と称して『ミラグロ』の様々な施設を回り、胞子をばら蒔いている。

 

「直ぐに治療しますね」

「よ、よろしく頼む。早く侵入者たちの元に行かねばならんのだ。ノコノコしてると、敵が直ぐそこまで来てしまうの…だ」

「はいはい。『胞子ボム』」

「ほう…?」

「『聖なるホーリー』って言ったんですよホーリー」

「そ、そうか。それなら安心のこな」


 そのため異変に気が付いた頃には『ミラグロ』は『のこちゃん』に占領されていることだろう。

 

――――――――――――――――


 『のこちゃん』たちが猛威を振るっている頃、リリスたちは、対『魔王』戦闘の準備をしていた。『のこちゃん』作戦が大成功に終われば『魔王』の魂を宿す誰かしらすらも『のこちゃん』の餌食となり終了だが、そこまで上手く行くとも思えない。


【身体を宿主として生える普通の茸と異なり、『のこちゃん』は魂を宿主にしますからね。流石の『のこちゃん』でもあの方の魂に生えるのは簡単では無いでしょう】

ぬいそう?」

まくかな~」

【そんな不安になるような事を言わないで下さい! 蒼唯様も『のこちゃん』は『神域』攻略のためと仰っていましたから】

ぬいぬあおは

まくまかしょう

【うぐ…確かに蒼唯様はご自身のアイテムの影響力を過小評価されるきらいがありますが。でも…流石に】


 『茸師』であるぬいから戦況を聞くたびに上手く行き過ぎていることが分かり逆に心配になってしまうリリス。

 

 本来、蒼唯が考案した今回の『のこのこパニック』は、『神域』を無力化するためのモノであった。

 常時回復や状態異常無効化等の強力なバフが味方全体に掛かる壊れ特性を持つ『神域』は、色々な要素を付け加えすぎているため、この『神域』の対象はかなり狭めに設定されていると考えていた。

 対象者を制限することで効果を増大させるのはアイテム造りではよくあり、更には『聖教』的にも『神域』に選ばれし者という箔付けが出きるため好ましいだろう。


 ここで問題である。

 そんな厳密に対象者を設定している中、『のこちゃん』が寄生している者たちは対象に入るのだろうか。『のこちゃん』を魂に宿している『ミラグロ』の住人たちは、元の人物と同一と言えるのだろうか。答えはノーである。

 そうなれば『神域』の効果で『のこちゃん』たちが浄化される事も無くなり、『のこちゃん』の大流行を止められるモノもないのである。


【まあ、倍々で感染していくので、『ミラグロ』全域が『のこちゃん』で溢れるのも時間の問題ですね。そうすれば『魔王』との戦闘において邪魔してくる輩の排除も容易ですからね】

ぬいぬいまかせろ!」


 これにより、『のこちゃん』がうっかり『魔王』の魂を食い荒らしてなければ、『ミラグロ』に残された脅威は『魔王』の魂を宿す者だけとなるのだった。

 


 

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