第174話 異世界化
年越し蕎麦を食べ、除夜の鐘で睡眠欲以外の煩悩を払いながら、リリスが得てきた情報を聞く蒼唯たち。
【結論から言うと、神聖王国の根幹を支える『聖教』が総本山『ミラグロ』がそのままダンジョンとして此方に出現していました。私たちのようにダンジョンマスター役一人だけではなく、『聖十字治療院』や『神聖騎士団』等の『ミラグロ』を守護していた者たちも一緒に召喚されてきたようです】
「それは興味深いですね。これまでのダンジョンとは違いそうです」
「ぬいぬい」
これまでダンジョンマスターとして出現していた者たちは、ダンジョンマスターのみが元の世界から連れてこられている状態であった。
「でもその神聖王国です? そこってリリスの話聞いてると人類の味方って感じがしてたですけど、今回のダンジョン災害はそいつらが起こしたですよね?」
【ええ、ですが正確に言えば彼らは『聖教』を信じる人類の味方です。彼らからすればこの世界の人類は守るべき存在には当たらないかと】
「なるほどです。まあ確かに別の世界の人ですしね」
異世界人、此方の感覚からすれば宇宙人的な存在を前に、守護する思いは出てこないだろう。とは言え態々害そうとするとかと言われれば疑問であった。
「まく~? まくまく」
【目的ですか? …おそらくとしか言えませんが、『勇者』の復活もしくは『勇者』の誕生ではないでしょうか】
「『魔王』の次は『勇者』ですか。でもダンジョン災害起こしたところでその『勇者』は出てくるです?」
【私が『悪夢の夢』と共に此方に来た時よりも、何て言うのでしょうか、此方の世界に占める私たちの世界の要素は増えてきていますよね】
「ダンジョンが増えて探索者も増えて、日常的にアイテムやらが出回っててことです?」
【はい。その結果、ダンジョンの難易度も徐々にですが上がっております。ダンジョン災害を起こし世界をより混沌に導くことで、この世界の異世界化を進め、最終的には封印された『勇者』を此方の世界に呼び起こすか、新たな『勇者』を誕生させようとしているのでは無いかと】
「はた迷惑ですね」
「ぬいぬい!」
「まく~!」
そんなリリスの予想を聞いた蒼唯。確かに蒼唯が『錬金術師』となった4年前は今よりダンジョンは少なく、難易度も低いダンジョンが多かったように感じる。
と言うよりもここ1年程で急速にリリスの言うところの異世界化が加速した印象であった。
リリスはまた面倒な事態になることが分かっているので絶対に口には出さないが、異世界化が急速に加速した主の原因は蒼唯たちにあるのではないか考えていた。
順当に行くのであれば、ダンジョンの秘密であるダンジョンマスターやダンジョン核の存在が明らかとなり、ダンジョン核を壊して完全攻略する探索者が少しずつ増えていった結果、異世界化が徐々に進んで行くという流れであったと思う。
それを蒼唯が『ぬいぐるみ』という壊れた存在を生み出し、ぬいとまっくよ的に美味しそうな上位ダンジョンばかりをブレイクしていった結果、加速度的に異世界化が進行したのだ。
あくまでもリリスの想像である。
ただこの想像が当たっていれば、本来は中ボス的立ち位置のリリスが探索者協会という探索者の総本山を掌握できるのも納得である。蒼唯が進行度を爆走で上げていった結果、ステージは終盤なのにキャラクターの成長は置いてきぼり状態という事である。
【……はぁー】
「どうしたです?」
【いえ、何も】
「そうです?」
蒼唯は首を傾げたが、それ以上は追求してこなかった。
「それでその『ミラグロ』には直ぐ行くです?」
【『ミラグロ』はあの性悪なサタンも攻めるのを躊躇したほど防衛力を誇る場所です。対策を講じない事には…】
「でも、ぬいとまっくよは今にも行きたそうですよ?」
「ぬいぬい!」
「まく~!」
【と言われましても、『ミラグロ』はまっくよ様の最強戦法である『小常闇』の効果も薄いんですよ】
「まく~? まくまく!」
「それは私も聞き捨てならんです。そいつらは『睡拳』でも使えるです?」
まっくよは構造上眠らない『ぬいぐるみ』等の人形でさえ眠らせられる存在である。
まっくよが眠りの効果が薄い存在など眠りながら戦える存在くらいだろう。
【いえ。ですが『ミラグロ』全体に『神域』が張り巡らされております。『神域』の効果の中に『浄化』と呼ばれる、状態異常を無効化し、味方を常時回復させ続けるというモノがあります】
「まくまく!」
【はい。眠らせることは可能だと思いますし、まっくよ様なら『神域』の回復ですら目覚めさせられないほど深く眠らせることも可能だと思います。ですが敵は大勢います。一人一人を熟睡状態にし行くとしたらどれ程の時間が掛かるでしょうか? 更にはダンジョンのリセット効果も使われるでしょう?】
「まく…」
ぬいたちが2匹でダンジョンブレイクしてこれたのは、ぬいの強さとまっくよの初見殺し性能の高さ故である。
それでいて生半可な対策など力業で突破できる自力もある。それでも完璧な対策を講じられれば苦戦は必死である。
【ぬい様とまっくよ様だけで突破するのは流石に現実的ではありません。かといって魔族である私は『神域』下ではあまりお役にたてませんし】
「なるほどです。相手を強化する『神域』が問題なんですね!」
【は、はい。そうですね】
「なら、それは私に任せるです!」
「ぬいぬい!」
「まく~」
【わ、わかりました…】
自信満々に胸を叩く蒼唯。彼女を見て何となくオチが見えた気がしたリリスなのであった。
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