第173話 年越し

 同時多発的にダンジョンブレイクが起こった未曾有のダンジョン災害からおよそ一週間が経過し、日本以外の国でも少しずつであるが、ダンジョン災害が終息しつつあった。

 今日は大晦日と言うことで蒼唯たちは『着せ替え部屋』を大晦日ごろごろモードに切り替え、部屋の中心に配置された炬燵に入りまったりしていた。

 

「いやー、ぬいとまっくよを造ったりです、リリスと出会ったりです、今年は中々に濃い1年だったです」

「ぬいぬい!」

「まく~」


 蒼唯にとってもそうであるように、探索者業界にとっても濃密な1年となった。主に蒼唯関連の出来事が運んでくる混沌によって。

 とは言え、蒼唯たちの活躍がなければ、都市を茸に侵食されたり、有力な探索者が夢の中に囚われたまま戻って来なかったり、職を失った探索者が路頭に迷ったりしていたため、必要な混沌ではあったのかもしれないが。


 その混沌の一番の犠牲者となったであろう、旧人類の敵で現在人類の救世主として活躍中のリリス。彼女は現在、『魔王』の記録を求めて猫集団に会いに行っており家を空けていた。

 ただこの前のダンジョンプレゼント騒動で、目を離し過ぎるどこまで蒼唯たちが暴走してしまうか分からないという教訓を得たリリスは、年越しまでには戻って来ると言っていた。


「リリスも年越しの前には戻って来るって話ですし、一緒に…あ、年越し蕎麦を作るの忘れてたです」

「まく~?」

「縁起の良い食べ物です。蕎麦は他の麺類より切れやすいですから、大晦日に食べて今年の災厄を断ち切るみたいな意味があるです」

「ぬ、ぬぬい!」

「いや、流石に単なる麺類にダンジョン災害を解決する効力はねーと思うですね‥いや師匠の作った蕎麦ならあるいは、です」


 そんな事を真剣に考える蒼唯。ここに師匠である優梨花がいれば、本格的に厄災断ち蕎麦の作成に取り掛かったかもしれないが、幸い坪家は家族でダンジョン災害の対応兼家族旅行で地元を離れているため考えるだけである。

 その後、ぬいとまっくよ用に『幻想金属オリハルコン』で年越し蕎麦を造り始める蒼唯。『幻想金属』の材質的にまったく切れやすく無いためある意味、年越し蕎麦には最も向かない食材の一つかもしれない。そもそも、ぬいとまっくよ以外には『幻想金属』は食材でも何でもない、単なる伝説の金属なのだが。


「こねこねです」

「ぬいぬい!」

「上手ですね。後は茹で…『幻想金属』って茹でれるです?」

「まく~?」

【…金属は茹でられないかと思いますが】


 そんな基本的な事に悩んでいると、呆れた様子のリリスが帰宅してきた。


「あ、リリスです。お帰りです。収穫はあったですか?」

【ただいま戻りました。まっくよ様方の情報網と蒼唯様が渡してくださったアイテムのお陰で、あの方の魂を持っている存在を確認出来ました】

「それなら良かったです。私とリリス用の年越し蕎麦も後は茹でるだけですから、少し待っててです」

【分かりました。あ、ぬい様、『カセットコンロ』の火加減を『地獄の業火』にしても茹でられないモノは茹でられないと思いますよ】

「ぬいー」

「そもそも、『地獄の業火』で焼かれたモノを食べたいとも思わないですしね。まあ茹でるのは諦めるです」

「まく~」 

 

 その後、4人で仲良く蕎麦を食べるのであった。

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